発表

2D-066

成人自閉症者のリアリティモニタリングに関する研究
−自閉症者は想像と現実を区別できるのか?−

[責任発表者] 山本 健太:1,2
[連名発表者・登壇者] 増本 康平:1
1:神戸大学, 2:日本学術振興会

目 的
 自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder; 以下ASD)とは,社会性の欠如や特定の行動パターンに固執するといった特徴をもつ障害である(American Psychiatric Association, 2013)。成人ASD者が抱える問題の一つに同じ失敗の繰り返しがある。この問題については,障害特性である固執性によるものと解釈されてきた(近藤ら,2009)。一方,定型発達者(以下;TD者)を対象とした研究は,リアリティモニタリングの低下が同じ失敗の繰り返しの要因の一つであることを指摘している(Norman, 1981)。リアリティモニタリングとは,イメージから生成された表象なのか(内的ソース),知覚された事物や遂行された行動によって生成された表象(外的ソース)の区別である(Johnson,1981)。例えば,鍵をかけようと思っただけなのか実際に鍵をかけたのか区別する機能がリアリティモニタリングである。これまでにASD者を対象としたリアリティモニタリングに関する研究は,機能が保たれているという研究(Farrant et al., 1998)もあれば,低下しているという研究(Hala et al., 2005; Cooper et al., 2016)もあり結果が一致していない。そこで本研究では,成人ASD 者のリアリティモニタリングに低下がみられるかどうかを検討する。
方 法
実験デザイン:群(2:ASD,TD)×条件(3:イメージ条件,パントマイム条件,実演条件)×保持期間(2:直後,遅延)。群は参加者間要因,条件と保持期間は参加者内要因であった。
実験参加者:成人ASD者20名(平均年齢27.6歳(SD=4.93),平均IQ102.3(SD=11.93),平均AQ 33.8(SD=4.76))と成人TD者20名(平均年齢歳28.1(SD=9.93),平均IQ103.9(SD=7.87),平均AQ15.5(SD=6.04))が実験に参加した。
リアリティモニタリング課題:記銘項目はCohen(1981)の記名項目を参考にMasumoto et al.(2015)が作成した行為文(例「ぼうしをかぶる」など)を使用した。行為文15項目を1リストとし,60項目,4リストを作成した。4リストのうち3リストは,3つの条件に1リストずつ振り分け,残りの1リストは,リアリティモニタリングテストのディストラクターとして使用した。
 条件は,イメージ条件,パントマイム条件,実演条件の3条件を設定した。イメージ条件では,参加者は実験者が口頭で呈示した行為文をイメージして記銘することが求められた。パントマイム条件では,実験者が口頭で項目を呈示した直後に参加者はその行為文のパントマイムをおこなって記銘した。実演条件では,実験者が口頭で行為文を呈示したのち,参加者が項目内容を道具を使用して実演し,行為文の記銘をおこなった。
 実験は個別実験の形態をとり,全ての行為文の記銘終了後に再認とリアリティモニタリングテストを実施した。参加者は,各項目に対し呈示されたと判断した場合には「ある」を選択し,呈示されなかったと判断した場合には「ない」を選択した(yes/no recognition)。「ある」と判断した場合には3条件のうちいずれの条件で記銘したのか回答をするよう求められた(Reality monitoring test)。同様のテストを一週間後にも実施した。
結 果
 リアリティモニタリング成績について3要因分散分析をおこなった。その結果,群(F(1,38))= 9.37, p < .01, η2G = .09),条件(F(2,76))= 72.05, p < .001, η2G = .39),保持期間(F(1,38))= 231.88, p < .001, η2G = .41)に有意な主効果がみられた。また,群と条件の交互作用が有意傾向であった(F(2,76) = 3.01, p =.056, η2G = .03)。交互作用について単純主効果の検定をおこなったところ,実演条件では両群に差がみられなかったが(n.s.),イメージ条件(p < .001)とパントマイム条件(p < .05)ではASD群はTD群よりも成績が低下していた(図1)。
考 察
 本研究ではイメージ条件とパントマイム条件においてASD者はTD者に比べ成績が低下しており,イメージ処理に問題があることが示された。これまでの研究は,イメージ処理には視空間ワーキングメモリが関連していることを報告している(Baddely,1986)。ASD者は視空間ワーキングメモリの機能が低下していることが報告されており(e.g., Bennetto et al., 1996; Ozonoff & Strayer, 2001),このことがイメージ処理の低下に影響を及ぼしたと考えられる。
 一方で,実演条件においてはASD者とTD者に差がみられなかった。先行研究でASD者は手がかりがあるとTD者と同レベルのモニタリング成績を示すことが報告されている(Hare et al., 2007)。本研究では呈示された道具が手がかりとなりASD 者の外部情報の処理が保たれていたと考えられる。

キーワード
自閉スペクトラム症/リアリティモニタリング/同じ失敗の繰り返し


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