発表

2C-057

大学生におけるアイデンティティ発達と養護性との関連

[責任発表者] 木下 雅博:1
[連名発表者・登壇者] 野崎 優樹:1,2, 北川 恵:1,2
1:甲南大学, 2:甲南大学

問題と目的
 アイデンティティとは,個人が自分の中に斉一性と連続性を感じられること,および他者がそれを認めてくれることの両方の事実の自覚である(Erikson, 1968)。アイデンティティは,青年期の人格発達において重要なテーマであり,近年では多次元モデルで説明されている(Luyckx et al., 2006)。
 一方,Erikson(1950)の8つの発達段階において,アイデンティティのつぎに来る課題として挙げられているのが親密性である。成人期では,他者と親密な関係を育み,次の世代を育成する。深刻な少子化が進む現代において,次世代育成能力がどのように形成されるのか,その個人差に関わる要因を検討することは重要な課題である。本研究では,幼い子どもの健全な発達を育成する共感性と技能である「養護性」(楜澤他,2009)に注目し,青年期の発達課題であるアイデンティティの発達状況によって養護性に違いがみられるかを検討することを目的とする。」

方法
調査協力者・調査時期:近畿地方に存在する私立大学に在籍する大学生226名(男性61名,女性,162名,無回答3名;平均年齢20.75歳,SD = 0.81)を分析対象とした。2018年12月~2019年1月に実施した。
調査項目:フェイスシート(性別・年齢・学年・学部)。多次元アイデンティティ発達尺度(25項目,5件法;中間他,2015)。養護性尺度(25項目,6件法:楜澤他,2009)。
倫理:本研究は,所属機関の倫理審査を通り,また,調査を行う前に,協力者に対してインフォームドコンセントを行った。

結果
 多次元アイデンティティ発達尺度と養護性尺度の各因子の合計得点を因子得点とした。多次元性アイデンティティ尺度の因子「コミットメント形成」,「コミットメントとの同一化」,「広い探求」,「深い探求」,「反芻的探究」を対象に潜在プロフィール分析を行い6クラスターを抽出した。各クラスターをLuyckx et al.(2008)にならい「達成」(自分の人生へのコミットメントと将来への探求が比較的高く反芻的探求が低い;n = 28),「早期完了」(自分の人生へのコミットメントは高いが,将来への探求と反復的探求が低い;n = 7),「探索モラトリアム」(自分の人生へのコミットメントと将来への探求が少し高いが反芻的探求も高い;n = 90),「モラトリアム」(自分の人生へのコミットメントと将来への探求が低いが反芻的探求が高い;n = 67),「拡散型拡散」(自分の人生へのコミットメントが低く,将来への

探求と(反芻的探求が高い;n = 11),「無問題化型拡散」(自分の人生へのコミットメント,将来への探求および反芻的探求が低い;n = 23)と命名した。各クラスターを独立変数,養護性因子の「共感性」,「技能」,「準備性」,「非受容性」を従属変数として,一要因の分散分析を行った。
 その結果,「共感性」は,「無問題化型拡散」群(M = 31.40,SD = 10.19)よりも,「達成」群(M = 41.32,SD = 8.58)および「探索モラトリアム」群(M = 38.32,SD = 8.66)の方が高いことが認められた(F(5, 204)= 4.21, p = .001)。また,同様に「技能」においても,「無問題化型拡散」群(M = 15.50,SD = 6.28)よりも,「達成」群(M = 23.84,SD = 9.81)および「探索モラトリアム」群(M = 21.63,SD = 7.98)の方が高いことが認められた(F(5, 204)= 3.28, p = .007)。

考察
 本研究では,大学生のアイデンティティ発達の各段階間における養護性の差を検討した。その結果,幼い子どもに対する共感性や接し方の技能は,自分のアイデンティティについて焦点を当てていない群よりも,アイデンティティを確立した群およびアイデンティティを探索している最中の群の方が高いことが明らかとなった。アイデンティティを確立した群と探索している最中の群に共通していることは,自分の将来像をとらえている一方で,その将来像を確定せず,より良い人生にするために探索を行っていることであった。この2つの群は自分の人生の次のステージを見据え,必要となる要素が自分の中に備わっているかを確認し,必要に応じて要素を習得している群であると考えられる。そのため,まだ自分のアイデンティティに焦点を当てていない群よりも,子どもと接するうえで必要となる要素を自分の中に見出せたのだろう。

引用文献
楜澤 令子・福本 俊・岩立 志津夫(2009). 大学生におけ る過去の被養護・養護体験が現在の養護性(nurturanc-  e)へ及ぼす影響 教育心理学研究,57,168―179.
Luyckx, K., Schwartz, S. J., Berzonsky, M. D., Soenens,  B., Vansteenkiste, M., Smits, I., & Goossens, L.  (2008). Capturing ruminative exploration: Extend- ing the four-dimensional model of identity forma- tion in late adolescence. Journal of Research in  Personality, 42, 58―82.
中間 玲子・杉村 和美・畑野 快・溝上 慎一・都筑 学 (2015). 多次元アイデンティティ発達尺度(DIDS)に よるアイデンティティ発達の検討と類型化の試み 心理 学研究,85,549―559.

キーワード
アイデンティティ/養護性/次世代育成能力


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