発表

2C-056

子どもとの関係構築経験と生と死に対する態度についての探索的検討

[責任発表者] 田中 美帆:1
1:武庫川女子大学

問 題 と 目 的
 妊産褥期は胎動および出産・授乳など子どもとの関係構築を短期間で経験する。例えば,妊娠期の胎動は胎児への愛着との間には正の相関があり,胎動を感じるようになるにつれて,愛着が強まる (Muller, 1992)。また,出産後の授乳や沐浴などの世話の中で相互交流が生まれ,愛着や親子関係が形成されることも指摘されている (Stern, Bruschweiler-Stern, & Freeland, 1998)。
 他方,妊娠した女性は子どもの命に対する究極的な責任を担い,この責任は出産後も子どもの栄養摂取,排泄など生命維持に直接かかわる一切の世話として継続していくが (岡本, 2016),このような子どもの命に対する究極的な責任は女性の持つ生と死に対する態度に影響することが示唆されている (Tanaka, 2018)。しかしながら,母子関係が短期間で最もダイナミックに変化する妊産褥期における様々な関係構築経験そのものと生と死に対する態度がどのように関連するのかは必ずしも十分に検討されていない。
 そこで,本研究では,母親がどのような経験を親子関係構築に影響を与えたと認識しているのか,またそれらが生と死に対する態度とどのように関連するのかについて探索的に検討する。

方 法
調査協力者 産後うつおよび不安障害のスクリーニング項目を通過した0歳の第一子を持つ母親103名のうち,正期産でなかったもの,生と死に対する態度尺度の80%以上が同じ回答をしているものを除外した94名 (M = 30.32歳, SD = 4.42) を分析対象とした。
調査期間と手続き 2018年8月下旬~9月上旬。株式会社マクロミルに登録をしているモニターを対象に,インターネット調査を実施した。
調査内容 (1) フェイスシート:年齢,子どもの月齢,婚姻状況,就労状況,分娩方法,授乳方法を尋ねた。 (2) 子どもとの関係構築経験:文献レビューをもとに独自に作成した「胎動」や「産声」などの妊娠期,出産後における親子関係づくりに影響を与えた経験 (以下,関係構築経験) について,「あり」,「なし」の2件法で回答を求めた。(3) 生と死に対する態度:生と死に対する態度尺度 (田中・齊藤, 2016) 26項目。「死への不安・恐怖 (8項目)」,「人生の目標 (8項目)」,「死後の世界への信念 (3項目)」,「生と死のつながり (4項目)」,「生への執着 (3項目)」について,「全くあてはまらない (1点)」から「非常にあてはまる (5点)」までの5件法で尋ねた。
倫理的配慮 調査実施にあたり武庫川女子大学文学部心理・社会福祉学科における研究倫理審査委員会に承認を受けた (受付番号531)。

結 果
1.調査協力者の特徴
 調査協力者の第一子の平均月齢は6.13ヶ月 (SD = 3.32) であった。調査協力者のうち98.9%が既婚であり,産休育休中もしくは仕事をしていない人は91.5%であった。分娩方法は81.9%が自然分娩,緊急を含む帝王切開が17.1%であった。授乳方法は完全母乳が45.7%,完全人工乳が5.3%,混合乳が48.9%であった。
2.関係構築経験の分類
 まず,関係構築経験についてカイ二乗検定を行い,「なし」の回答が有意に多かったおよび有意な差が認められなかった5項目を削除し,クラスタ分析 (Ward法,平方ユーグリット距離) を実施した。その結果,関係構築経験は大きく3つのクラスタ分析に区別できた。それぞれ,胎動や授乳,普段の抱っこなどの4項目からなる「日常経験」 (M = 3.05, SD = 1.17),産声,初めての抱っこ,妊娠判明の3項目からなる「初接触経験」 (M = 1.93, SD = 1.20),「超音波検査,お腹のふくらみ,分娩の3項目からなる「身体経験」 (M = 1.89, SD = 1.19) と命名した。
3.生と死に対する態度との関連
 次に,生と死に対する態度の各下位尺度について合計得点を算出し,関係構築経験との相関係数を算出した。その結果,死への不安・恐怖と初接触経験 (r = .29, p < .01) および身体経験 (r = .20, p < .05),人生の目標と日常経験 (r = .21, p < .05),初接触経験 (r = .36, p < .001) および身体経験 (r = .22, p < .05),生への執着と初接触経験 (r = .29, p < .01) との間に弱い正の相関が認められた。

考 察
 本研究では,母親の認識する関係構築経験と生と死に対する態度の関連について探索的に検討した。結果から,母親の認識する子どもとの関係構築経験が日常的な世話に関するもの,初めての接触や経験に関するもの,身体的な接触に関するもの,の大きく3つのまとまりによって把握できること,これらの関係構築経験が生と死に対する態度のうち死への不安・恐怖,人生の目標,生への執着と関連していることが明らかになった。今後は調査を継続し,精緻な検討を行っていくことが必要である。

付 記
本研究はJSPS科研費18K13034からの助成を受けた。

キーワード
生と死に対する態度/関係構築経験/育児期


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