発表

2C-053

大学生における自閉傾向,不安傾向,抑うつ傾向と注意バイアス

[責任発表者] 遠山 妃彌子:1
[連名発表者・登壇者] 髙田 孝二:1, 実吉 綾子:1
1:帝京大学

問題と目的
 近年,不安や抑うつに関する認知バイアスの研究は多くなされており,例えば不安者や抑うつ者は中性情報よりも脅威情報(ネガティブ情報)を選択的に処理するという注意バイアスをもつことが指摘されている(藤原・岩永・生和,2007)。定型発達者の大学生を用いた研究では,自閉傾向と不安感を含むストレス反応には正の相関があることが明らかになっている(伊勢・十一,2014)。このことから,自閉傾向が強いと注意バイアスが強く認められることが考えられるが,自閉傾向と注意バイアスの関係を明らかにする先行研究は少ない。そこで本研究では,抑うつ傾向,不安傾向が注意バイアスに与える影響について確認するとともに,自閉傾向が注意バイアスに与える影響について定型発達の大学生で検討した。
方法
参加者 大学生289名(男性140名,女性134名,平均年齢20歳,SD=1.46)を対象として質問紙調査を行なった。そのうち,実験に参加したのは大学生21名(男性4名,女性17名,平均年齢20歳,SD=1.46)であった。
調査用紙 AQ(若林・東條,2004),新版STAI (肥田野・福原・岩脇・曽我・Spielberger,2000),日本版BDI-Ⅱ (Beck & Steer & Brown,1987 小嶋・古川訳 2003)を使用した。実験への参加者募集は調査用紙の末尾に記載して行った。
刺激 樋上ら(2015)のデータベースから情動性と感情価の高いものから順にポジティブ語12語,情動性と情動価の高いものから順に倫理的配慮として死亡関連用語を2語に留めたネガティブ語12語,情動性と感情価の低いものから順にニュートラル語を24語使用した。
手続き 注視点を500ms呈示し,その後注視点の上下に単語を1000ms呈示した。25ms後に注視点の上下どちらかに,左右いずれかの不等号を呈示し,不等号の閉じている向きを回答させた。単語はポジティブ語とニュートラル語,もしくはネガティブ語とニュートラル語の組み合わせで提示された。
結果
質問紙調査
 AQでの臨床群と統制群のカットオフである33点以上であった者は16名であり,BDI-Ⅱの重症のカットオフである29点以上63点以下の者は43名であった。AQ得点と状態不安得点,特性不安得点の関係を検討するために,AQ得点とそれぞれの相関係数を算出した。その結果,AQ得点と状態不安得点と特性不安得点の間には,有意な相関が認められた(r = .18, p<.001)(r = .40, p<.001)。
注意バイアスの実験
 注意バイアスが生じていたかを確認するために,感情語と対となった中性語に対して対応のあるサンプルのt検定を行った。その結果,ネガティブ語条件の反応時間(474 msec)の方が,ネガティブ語と対で呈示された中性語条件の反応時間(488 msec)よりも,有意に反応時間が短いことが示された,t(20)=2.81,p<.01。一方,ポジティブ語の反応時間( 485 msec)とポジティブ語と対で呈示された中性語の反応時間(476 msec)の平均値に有意差は認められなかった, t(20)=2.01,n.s.。したがって全体として注意バイアスが認められた。
 自閉,不安,抑うつ傾向と注意バイアスの関係を検討するために,相関係数を算出した。その結果,AQ得点とネガティブ語の反応時間に有意傾向が認められた(r = -.39, p=.08)。BDI-Ⅱ得点,状態不安得点とネガティブ語の反応時間に有意な相関は認められなかった(; r = -.12.; r = -.21, p>.05.)。特性不安得点とネガティブ語の反応時間には有意な負の相関が認められた(r = -.48, p<.05)。また,AQ得点とポジティブ語の反応時間に有意な負の相関が認められた(r = -.44, p<.05)。BDI-Ⅱ得点,状態不安得点とポジティブ語の反応時間には有意な相関は認められなかった(r = -.14, n.s.; r = -.06, n.s.)。特性不安得点とポジティブ語の反応時間に有意な負の相関が認められた(r = -.43, p<.05)。
考察
 全体としてネガティブ語条件の反応時間が短くなるという注意バイアスが働いていることを示す結果が得られた。また,自閉傾向の得点が高くなるほどネガティブ語条件の反応時間が短くなる傾向が見られたが有意ではなかった。特性不安では得点が高くなるほど,ネガティブ語条件の反応時間が短くなるバイアスがある傾向が示された。自閉傾向,特性不安にポジティブ語の反応時間が短くなるバイアスが示された。
 特性不安が高くなるほど,ネガティブ語,ポジティブ語のどちらにも注意が向きやすく,自閉傾向についても同様の傾向が認められた。今後,自閉傾向とポジティブ語の注意バイアスについても検討が必要であると考えられる。

引用文献
藤原 裕也・岩永 誠・生和 秀敏(2007).不安と抑うつにおける認知バイアスに関する研究 行動療法研究,33,145-155
樋上 巧洋他(2015).南山大学紀要『アカデミア』人文・自然学編,10,195-204
伊勢 由佳利・十一 元三(2014).自閉症スペクトラム障害およびその傾向をもつ成人における不安を中心とした心身状態とストレスに関する研究 児童青年精神医学とその近接領域,55,173-187

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