発表

2B-073

幼児期における目的に応じた教示行為の調整

[責任発表者] 木下 孝司:1
1:神戸大学

【問題】
 人類が累進的な文化進化を成し遂げる上で,教示(教育)は重要な役割を担っている。幼児も他者に教えることはしばしば観察され,発達研究では教示行為を「自分より知識の少ない他者の知識を増やそうとする意図的な行為」と認知論的に定義して,心の理論が発達する4歳頃より本格的な教示が可能になるとされている。他方,木下・久保(2010)の観察研究によると,日常場面における教示には,他者の課題遂行を単に援助する目的のものと,他者が熟達して単独で遂行できるようになることを意図したものとが見られた。その際,教示の目的によって,教え方を調整する必要があり,学習者の熟達を目指した教示であれば,本人にできるだけ試行させるなど学習者を主体にした教示方法をとることが増えると予想できる。本研究は,幼児が教示の目的に応じて教示方法を調整することが可能であるのかを検証することを目的とする。

【方法】
1.対象児:保育園年長児18名(男児11名,女児7名。平均70.4か月,範囲65〜75か月),年中児16名(男児8名,女児8名。平均60.1か月,範囲54〜65か月)。この対象児を,迅速教示群16名(男児9名,女児7名。平均65.5か月,範囲54〜76か月),熟達教示群18名(男児10名,女児8名。平均65.6か月,範囲54〜75か月)に分けた。
2.方法
 実験に先立ち,クラスごとに折り紙のチューリップの製作を行い,必要に応じて個別に折り方を確認して習熟を図った。実験場面では,対象児は机をはさんで実験者と対面し,対象児の側方に実験補助者が操作するパンダのパペット(ファン)を提示した。
1)導入ビデオ視聴:群ごとに内容の異なる,ファンが登場する人形劇をビデオにて視聴させた。迅速教示群のストーリー:動物保育園のファン君は,先生から年少組の飾りにするチューリップを作って至急,持ってくるように頼まれるが,作り方を知らなくて困ってしまう。熟達教示群のストーリー:ファン君は,先生から年少組の子どもにチューリップの作り方を教えるように頼まれるが,作り方を知らなくて困ってしまう。2)教示課題:ファンの置かれた状況を確認した後で,ファンにチューリップの作り方を教えるように教示した。ファンは対象児の教示(実演)ペースに従って折っていくが,補助線を折らず,花びらを大きく折り込むという間違いをする。3)ファンの単独試行:対象児に今度は黙ったまま,ファンが折るところを見ておくように指示し,ファンはチューリップを同じく間違った折り方をした。4)教示課題(2回目):再度,ファンに教えるように教示し,ファンは対象児の教示に従いつつ,正しく折った。5)その他の課題:抑制課題2種類(赤青課題,ハンドテスト),PVT-R絵画語い発達検査(上野他,2008)も実施した。
【結果と考察】
1.教示方略
 教示行為として,折りながら言語的な説明を付加したもの(言語的教示)と,学習者の進行を確認しながら折ったもの(モニタリング演示)を評定した。チューリップを完成させるための4工程中,これらの教示方略が見られた工程数の平均を図1に示した。全体に言語的な説明をしながら演示する頻度は低く,PVT-Rによる成績と有意な相関は認められなかった(1回目:r=.011,2回目:r=.09)。言語的には説明しにくい折り紙を題材にしたこと,あわせて対象児にも折り紙を渡したことが発話の少なさをもたらした可能性がある。しかしながら,学習者の状況を気にせずに折り進めているわけではなく,学習者の様子をモニタリングしており,学習者自身が教えられるようになることを目的とした熟達教示群において,その傾向がより認められた(F(1,30)=3.16,p<.10)。
2.2回目の教示での変化
 学習者のエラーを目撃した後,2回目の教示を行う際に次のような変化があった。1)学習者がエラーした工程において,学習者の行動を注視するようになった者は,迅速教示群5名(年長児2名,年中児3名),熟達教示群6名(年長児5名,年中児1名)いた。2)エラー工程において,さらに自らの手を止めて学習者の進行を待つようになった者は,迅速教示群2名(年長児1名,年中児1名),熟達教示群9名(年長児7名,年中児2名)おり,後者の方が再教示において学習者を待つ者がより存在した(p=.030)。3)言語的教示を行う場合,再教示では説明をより丁寧にする者が7名いた(うち6名が熟達教示群)。
 以上より,学習者を熟達させるために,その課題遂行状況をモニターしつつ,教示の仕方をより調整することが確認できた。
【引用文献】木下孝司・久保加奈(2010)幼児期における教示行為の発達:日常保育場面の観察による検討 心理科学,31(2),1-22.
【謝辞】本研究は科学研究費(基盤C)の補助を受けた。

キーワード
幼児/教示


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