発表

2B-071

“心の闇の原型”を乗り越えつつ留学をもって自立の道を歩む若者
我が娘の場合

[責任発表者] 宮野 祥雄:1
1:なし

 問 題
 精神的自立の過渡期における,程度の差はあろうが,自我の要求が充たされず,時として自我に没入,埋没し,緊張や不安,内外に対する不信に陥り,動揺しての状態を心の闇の原型と命名した。本原型を乗り越えつつ,留学をもって自立の道を歩む若者についてシュプランガーの了解に則り,探求を目指している。これまで留学をもって自立し,功を成し遂げた多くの人が認められ,偉人伝も出版されてきている。文献を検索すると,留学を紹介する雑誌や新聞の記事,留学とキャリアについての研究や,留学によって不登校などを乗り越えた若者についての研究や新聞の記事はあるが,前述してきた私の目指す探求事例は皆無であり,縦断的探求事例として我が娘を取りあげ,シュプランガーの了解に則り,検討を試みる。
 方 法
 心の闇の原型の仮説の立案については,日本教育心理学会第61回総会において発表の予定。研究方法は縦断的研究でシュプランガーの了解に則る探求である。研究の対象は,渡仏し,フランス語を学び,フランスの大学院修士課程(文化交流学)を終了,現在はフランスの出版社に勤務する我が娘である。娘の成長過程で親として,心理学の研究者,教育者として本娘にかかわってきた。この過程で本研究における問題意識が芽生えた。本娘に研究の趣旨を説明し,自らの中学生期,高校生以降の時期についての手記の提供を娘に依頼した。前者の手記を2018年5月15日に入手し,後者を6月27日に入手した。本手記および構築する本論文の本大会におけるポスター発表及び本論文のウエブ公開について本娘の承諾を得た。本娘に本論文を読んでもらい,娘とのやり取りをもって本論文の構築を進めた。
 了解的探求
 私による娘についての行動観察及び,本娘が自らの中学校期や高校期,大学期について振り返って記述した手記をもとに了解的探求を試みる。
中学校期 資料には「中学に入り,みんな所謂「いいこ」だった小学校から……環境に変化した。くだらない。私は勉強を頑張ろう,ここに染まってしまってはダメだと……勉強を頑張るように心がけた。英語の成績を挙げ(上げ)ようと英語の本を読むように……私の海外への興味はここに起源があるのではないか……。」「テレビがなかった私にとって,NHKの美術番組を見ながら……美術の授業は私の興味を引いた。自分が知らない国の人が表現する世界,違う時代,違う土地で生きた彼らの目にはどのように世界が見え……。この興味心は……,私の核となっている……。」とある。娘が学業成績についての父親による期待を受け入れなくなった。資料には「両親ともに教師の家庭で育った私は常に成績が良くなくてはいけないものだという意識が強く,成績が悪くなるとすごく自分に嫌気がさした。」とある。部活動について資料に「当時入った……部で……昨日まで仲(の)良かった子に,翌日無視され……仲間はずれにするということも目の当たりにした。……順番にターゲットを決め巡っていく……。……相談にのってくれたのが……先生だった。……高校(に)進学するときにマイナスになるから,休部にしたらいいと勧められたものの,……退部。」「部活を辞めると同時に,付き合う友達が変わった。勉強ができ,……と付き合うようになる。その……影響もあって……高校の推薦を受けることを決意……勉強への意識も高まり,頑張ることが恥ずかしいことではない……と思うようになった。」「……部活での体験から,部活のメンバーを見返してやる……マラソンでは全校で
3位になった。負けず嫌い,忍耐力は当時培ったともいえる。」とある。2年次のこの大会の女子部で1位になった。3年次
に娘の同調するグループの一人が,ある先生から「あなたには,この教科で光るものがない」と言われたということでこのグループの皆と,娘も憤慨していたという。別のある先生が娘の高校推薦のことを考えてくださってか,生徒会の役員になっては,と,勧められた。が,前述してきた友達関係を考えて娘はこの勧めを断ったのではないか。家庭について資料には「小さい頃から,川,海,田んぼなど……経験を…
…父と時間を過ごせ……母とは,一緒に過ごせる時はとても密な時間にしてくれた。……愛を感じて育った……会話を大切にしてくれた……。」とある。
高校期 娘は公立の進学校に推薦で入学。1年次の英語の学力テストで1番になった。資料には「中学までは人と違うことがいやで……家族のことでからかわれて嫌だった時期もあったが,高校に入ると……いじめのようなことをする人などいなかったため,それほど気にならなくなった。」「……何か新しい人生の始まりの様な感覚になった。」「ダンス部に……体育祭の応援団にも参加した。」「叔父叔母とのカナダ……アメリカ旅行……。この経験をしたときに,海外への興味がどんどん膨らみ,海外と関わる仕事がしたいと……大学は国際学部を受験。」とある。
大学期 私立女子大学に入学。資料には「先生(所属する大学の)……は勉強を頑張る私をすごく応援してくれ……志望大学には落ちたけど……それで良かったって思えるほどの経験をしてやる……と意気込んで大学に入学したのを覚えている。」「高校生活を終えた時点で,私の人格はポジティブ,好奇心旺盛,努力家へと形成されていった」とある。大学の学位式の学部代表に選出されるも,その日を待たず渡仏。
 以上の,娘についての私の行動観察と,娘が自らの中学・高校・大学期を振り返っての手記からは,友人や学業成績,同級生,部活,進路などについての心の闇の原型(精神的自立の過渡期における,程度の差はあろうが,自我の要求が充たされず時として自我に没入・埋没し,緊張や不安,内外に対する不信に陥り,動揺しての状態)を乗り越えつつ,自立の道を歩む娘が読み取れよう。

キーワード
“心の闇の原型”/留学をもっての自立/Spranger’s“Verstehen”


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