発表

2B-070

項目反応理論を用いた子どもの感情語彙尺度の開発

[責任発表者] 浜名 真以:1
[連名発表者・登壇者] 分寺 杏介#:1,2
1:東京大学, 2:日本学術振興会

目 的
「嬉しい」,「悲しい」などの感情語の獲得は2歳前後から始まり,感情状態の伝達,感情調整,感情推論などのコンピテンスの基盤となる(Kopp, 1989; Miller & Sperry, 1988)。しかし,日本においては,3歳児以降の子どもの感情語彙の個人差を測定するツールが存在しない。そこで,本研究では,幼児期から児童期早期の子どもの感情語彙測定用の尺度を開発する。項目反応理論を用いて分析を行い,各年齢グループに合った少数項目から成る尺度を作成する。
方 法
回答者 年少児,年中児,年長児,小学1年生,2年生,3年生のいずれかの子どもを持つ母親を対象にweb調査を行った。有効回答者数は872名(平均年齢36.5歳,SD = 4.6歳)であった。
調査内容 (1)子どもの感情語彙:本研究において178語の感情語リストを新たに作成し,子どもの感情語彙を測定した。回答者は,各感情語について,子どもが「知らない」,「知っている」,「知っている・言う」のいずれかにマークした。178項目のうち4項目は,無気力回答者の判定のために使用した。(2)母親による子どもの情動コンピテンスについての理解:回答者が自身の情動コンピテンスについて回答する尺度である改訂版WLEIS(野崎, 2017)の文言を,回答者が自分の子どもの情動コンピテンスについて回答できるよう変更して使用した。
結 果・考 察
子どもの感情語彙の得点化 産出語彙については,「知らない」,「知っている」を0点,「知っている・言う」を1点として得点化した。受容語彙については,「知らない」を0点,「知っている」,「知っている・言う」を1点として得点化した。産出語彙については,回答者全員が「知らない」,もしくは「知っている」と回答した3項目を,受容語彙については,回答者全員が「知らない」と回答した5項目を削除して分析を行った。
予備的な項目パラメタの推定 2パラメタ・ロジスティックモデル(2PLM)を適用して,項目パラメタである識別力と困難度の推定を行った。産出語彙,受容語彙のそれぞれについて,困難度が-4.0より小さい項目,4.0より大きい項目を削除した。この手続きを経て,産出語彙については131項目,受容語彙については148項目が残った。
一因子性の検証 困難度に基づいた項目の削除の過程を経て残った項目における一因子性の検討を行った。通常はテトラコリック相関を用いた因子分析によって検証されることが多いが,本データでは相関行列が正定値とならないことから,DETECT(Zhang, 2007)を用いた。本研究のデータでは,項目間に明確なクラスター構造が仮定されないため,クラスター数が2から10の条件下で探索的にクラスターを決定したうえでDETECT値を算出した。一因子性の検証は,様々なクラスター数のもとで算出されたDETECT値のうち最大のものによって判断する。よって以上の手続きを50回繰り返し,DETECT値最大値の範囲を求めた。その結果,産出語彙では0.047-0.087,受容語彙では0.026-0.077であった。Roussos & Ozbek (2006)ではDETECT値が0.2未満の場合にはテストが概ね一因子構造であるとみなして良いという指標を提示している。よって本研究では,産出語彙・受容語彙ともに一因子構造とみなして分析を行った。
項目パラメタの推定と個人特性値の推定 2パラメタ・ロジスティックモデル(2PLM)を適用して項目パラメタを推定し,最尤推定法を用いて感情語彙能力の個人特性値を推定した。産出語彙と受容語彙それぞれの個人特性値と子どもの月齢の相関分析を行ったところ,中程度の相関が認められた(産出語彙 r = .59, p < .001; 受容語彙 r = .68, p < .001)。性別の情報の得られている262名分のデータ(うち,男児134名)をもとに,月齢を統制変数とする個人特性値と性別(男児1,女児2)の偏相関分析を行ったところ,産出語彙,受容語彙のどちらの個人特性値も,性別との相関が認められなかった(産出語彙 r = .02 p = .99; 受容語彙 r = -.09, p = .17)。
弁別的妥当性 弁別的妥当性を検討するため,月齢を統制変数とする,産出語彙と受容語彙それぞれの個人特性値と,母親による子どもの情動コンピテンスについての理解の4つの下位尺度得点の偏相関分析を行った。その結果,産出語彙の個人特性値と子どもの自己の情動の評価と認識についての理解の間に弱い相関が認められた(r = .26, p <.001)。産出語彙と母親による子どもの情動コンピテンスの理解の残りの3つの下位尺度の間,および,受容語彙の個人特性値と母親による子どもの情動コンピテンスの理解の4つの下位尺度の間にはほとんど相関がなかった(rs < .20, p <.001)。このことから,本研究で測定した子どもの感情語彙は,母親の子どもの情動コンピテンスに関する理解を測定したものではないと考えられ,弁別的妥当性が認められたと言える。
短縮版尺度の作成 自動テスト構成法を用いて,幼児,児童の2つの年齢グループそれぞれを対象とする短縮版の感情語彙測定用尺度を作成した。産出語彙測定用,受容語彙測定用の尺度それぞれ30項目ずつとした。各年齢グループで対象者の70%が含まれる個人特性値の範囲に5つの目標値をとり,そのすべてのテスト情報量が8.0以上になるよう指定した。その上で,全体としてテスト情報関数ができるだけ小さくなるよう最適化した。最後に,目標値に近いテストが構成されたことを視覚的に確認した。今後は,本研究で開発した短縮版尺度の信頼性および収束的妥当性を検証していくことが求められる。

キーワード
子ども/感情/項目反応理論


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