発表

2B-069

「私はなぜ私なのか」と問うことと情動調整方略・自己価値の随伴性・死生観の関連

[責任発表者] 天谷 祐子:1
1:名古屋市立大学

【問題と目的】
小学校高学年から中学にかけて,約半数の人に,「私はなぜ私なのか」という問い-自我体験-が経験される(天谷,2002)。自我体験によって経験される問いには普遍的な回答が存在しない。しかし,自我体験によって経験される問いの回答を見つけようと思考錯誤し,「答えはすぐに見つからない」と思考をいったんやめることで切り替えを行う経験を,自我体験未経験者よりも多く持つことが考えられる。そのような思考の切り替えを行う経験が,その時期にある人たちの日常生活における情動調整にポジティブに寄与するのではないかと考えられる。ここで情動調整とは,「個人が意図的または自動的に情動の程度を調節する過程」であると村山・伊藤・高柳・上宮・中島・片桐・浜田・明翫・辻井(2017)は述べており,その方略として,反すう,問題解決,気晴らし,認知的再評価を挙げている。本研究ではそのうち,気晴らしと認知的再評価の2つを取りあげて,自我体験の経験との関連を検討する。気晴らしは,不快な情動やその原因となった環境から注意をそらすための行動や認知的活動(Rothbart,Sheese, & Posner,2007)であり,認知的再評価は,不快な情動の緩和を目的として,ストレスフルな状況の解釈をよりネガティブ価の低いものに修正する過程(Gross,2998)である。気晴らしも認知的再評価も,自我体験経験者の方がそうでない人よりもより行う傾向があると想定される。また,自己価値の随伴性との関連において,自我体験を経験することで,絶対的な自己の存在感について疑問を持ったり意識を高めたりすることから,他者との関係のありかたによって自己価値が変動しにくいと想定される。よって,自我体験未経験者の方が自己価値の随伴性の高さとより強く関連することが考えられる。なお,自我体験の経験の程度と死生観との関連について,先行研究においてもその関連が見出されてきた(天谷,2017発達心学会発表)。本研究において,より多くの調査協力者のデータにより両者の関連を明らかにすることを補足的な目的とする。
以上より,本研究では第1の目的として,児童期後半から青年期にある人を対象に,質問紙調査により,自我体験の経験と,情動調整方略や自己のあり方の間の関連を見ることを目的とする。第2の目的として,自我体験の経験と,死後の物理的・精神的活動を肯定するか否かの間の関連を見ることを目的とする。
【方法】
1.調査協力者:小学校5・6年生400名(男性203名,女性197名)であった。
2.質問紙の構成:(a)自我体験尺度:天谷(2015)による自我体験尺度15項目。(b)情動調整方略:村山・伊藤・高柳・中島・片桐・浜田・明翫・辻井(2017)による情動調整方略尺度「認知的再評価」因子(項目例:「いやなことがあったとき,考え方を変えることで,自分の気持ちをコントロールする」)5項目と「気晴らし」因子(項目例:「いやなことがあったとき,友達と遊ぶ」)3項目。(c)自己価値の随伴性:大谷・中谷(2010)による自己価値の随伴性尺度「友人関係」因子4項目(項目例:「仲間との関係しだいで,自分に自信をもてるかどうかは左右される」)。(d)死生観:Bering&Bjorklund(2004)による幼児向けの質問を小中学生用に改変して使用した。死んでいる人と脳死状態の人のイラストを提示し,それらの人が例えば「お母さんのことを大切に思う」ことができるかどうかを「はい」「いいえ」で回答を求めた。8項目を2人の状態の人それぞれに尋ねた。また丹下(1999)による中学生向け死に対する態度尺度「死後の生活」因子(項目例:「人は死んでもまた別の人として生まれ変わる」)と金児(1997)による宗教的態度尺度「霊魂概念」因子(項目例:「仏様や神様を信心して願い事をすれば,いつかその願い事がかなえられる」),「近代合理主義」因子(項目例:「科学が進めば進むほど,宗教の重要性が薄れる」)計10項目。(f)宗教的文化的習慣:信仰している宗教の有無と信仰の程度を7件法で尋ねた。手続きとしては,株式会社ネオ・マーケティングにおけるインターネット調査の登録者サンプルから,日本全国の小学校5・6年生の子どもを持つ親を対象に,オンライン・アンケート調査を依頼した。
【結果】
 扱った各指標について,α係数を求め,適切な内的整合性を有していることを確認した。その上で各指標同士の相関係数を求めた。自我体験尺度得点との間では,情動調整方略尺度の「気晴らし」との間に.31(p<.001),「認知的再評価」との間に.38(p<.001)と中程度の正の有意な値が得られた。自己価値の随伴性尺度「友人関係」の間に.24(p<.001)と弱い正の有意な値が得られた。また,死生観に関わる項目との関係については,「宗教的態度」との間に.24(p<.001),「生まれ変わり観」との間に.16(p<.01),死後の物理的活動得点(肯定を1点,否定を0点とした)との間に.17(p<.01),死後の精神的活動得点との間に.22(p<.001),脳死状態の物理的活動得点との間には有意な値は得られず,脳死状態の精神的活動得点との間に.12(p<.05)の値が得られた。
【考察】
 本研究の結果,小学校高学年生時点で自我体験を経験していることが,日常生活において気晴らしや認知的再評価といった情動調整方略をより多く用いるていることが確認された。一方で,自我体験を経験していることが,自己価値の随伴性ともポジティブに関連していた。この点については想定とは逆の結果となった。自我体験の経験は,対人関係領域の自己価値の随伴性を弱めるわけではなく,自我体験の経験とは別に,日常生活において他者との関係で自尊感情を追求しようとすることが示された。この点についてさらなる検討が望まれる。
注.本研究は上廣倫理財団の助成を受けた。

キーワード
自我体験/情動調整方略/自己価値の随伴性


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