発表

2AM-099

成人自閉症者のソースモニタリングに関する研究

[責任発表者] 山本 健太:1
[連名発表者] 増本 康平:1
1:神戸大学

目 的

 自閉症スペクトラム障害(Autism Spectrum Disorder; 以下ASD)とは,社会性の欠如や特定の行動パターンに固執するといった特徴をもつ障害である(American Psychiatric Association, 2013).近年,ASD者の認知機能のなかでも,自己に関する記憶の低下が注目されており(レビューとして,山本・増本,2016),例えば,自己と関連付けて憶えると記憶成績が高まる自己参照効果がASD者にはみられない(e.g.,Toichi et al.,2002; Grisdale et al., 2014).ASD者の自己に関する記憶の低下については,現象そのものを報告した研究が多く,なぜ低下がみられるのかを検証した研究はみあたらない.そこで本研究では,ASD者の自己に関する記憶の低下にソースモニタリングが影響しているかどうかを検証することを目的とする.ソースモニタリングとは,自身が経験した記憶について,いつ・どこで・どのようにといった情報源を特定する機能である(Johnson et al.,1993).もし,ASD者が自身でおこなったことと他者がおこなったことの情報源を特定する機能が保たれていれば,自己に関する記憶の低下の要因の一つにはならないだろう.ソースモニタリンングに重要な役割を担う脳部位は前頭前野であるが(Turner et al.,2008),ASD者は前頭前野の機能に異常がみられる(Ben Shalom, 2009).そのため,ASD者はソースモニタリングが低下し,自己に関する記憶の低下の要因になっていることが予測される.

方 法

実験デザイン:群(2:ASD,定型発達者(TD))×条件(3:言語条件,観察条件,実演条件)×保持期間(2:直後,遅延).群は参加者間要因,条件と保持期間は参加者内要因であった.

実験参加者:成人ASD者(平均年齢30.5歳(6.86),平均IQ103.64(9.94),平均AQ 34.29(5.06))と成人TD者16名(平均年齢27.88歳(10.1),平均IQ106.38(12.58),平均AQ 15.44(4.56))が実験に参加した.

記憶課題:記銘項目はCohen(1981)の記名項目を参考にMasumoto et al.(2015)が作成した行為文(例えば「拍手をする」など)を使用した.行為文15項目を1リストとし,60項目,4リストを作成した.4リストのうち3リストは,言語条件,観察条件,実演条件の各条件に1リストずつ振り分けた.残りの1リストは,ソースモニタリングテストの際のディストラクターとして使用した.いずれの群においてもリストの振り分けはカウンターバランスをとった.

 条件は,言語条件,観察条件,実演条件の3条件を設定した.言語条件では,参加者は実験者が口頭で呈示した行為文を記銘することが求められた.観察条件では,実験者が口頭で項目を呈示した直後に,実験者が項目内容を実演し,参加者はその実演を見て行為文の記銘をおこなった.実演条件では,実験者が口頭で行為文を呈示したのち,参加者が項目内容を実演し,行為文の記銘をおこなった.条件の実施順序は参加者間でカウンターバランスをとった.

 実験は個別実験の形態をとり,全ての行為文の記銘終了後に再認とソースモニタリングテストを実施した.参加者は,各項目に対し呈示されたと判断した場合には「ある」を選択し,呈示されなかったと判断した場合には「ない」を選択した(yes/no recognition).「ある」と判断した場合には3条件のうちいずれの条件で記銘したのか回答をするよう求められた(Source monitoring test).同様のテストを一週間後にも実施した.

結 果

 ソースモニタリング成績について3要因分散分析をおこなった結果,群(F(1,28)=4.69, p <.05,η2G = .06),条件(F(2,56)=28.65, p <.001, η2G = .30),保持期間(F(1,28)=113.79, p <.001, η2G = .23)に有意な主効果がみられ,条件と保持期間との間に有意な交互作用がみられた(F(2,56)=4.84, p <.05, η2G = .02)(図1).条件と保持期間の交互作用について,単純主効果の検定をおこなったところ,保持期間にかかわらず実演条件,観察条件,言語条件の順に成績が高かった.また,条件にかかわらず直後に比べ遅延の成績が低下していた.

考 察

 実験の結果,ASD者はTD者に比べソースモニタリングの成績が低下していた.この理由として,ASD者はソースモニタリングに重要な役割を担う前頭前野の機能の低下が考えられる.前頭前野は自身が経験した出来事の詳細を特定する想起意識や情報源の特定のための実行機能の役割を担い,ASD者はこれらの機能も低下している(Bowler et al.,2000; Benneto et al.,1996).以上のことから,本研究ではASD者の自己に関する記憶の低下の要因の一つにソースモニタリングの低下が影響を及ぼしていることが示唆された.しかしながら本研究では,実際に脳活動を測定していない.そのため,今後は結果の解釈が妥当であるかどうか検証がのぞまれる.また,ASD者は個々によって症状の偏りがみられることからサンプルサイズを大きくして検証することも必要であろう.

詳細検索