発表

1PM-096

他者の感情理解における子どもと大人の自己中心性バイアス

[責任発表者] 林 創:1
[連名発表者] 西川 未菜#:2
1:神戸大学, 2:福岡家庭裁判所

問題と目的
 私たちは幼児期の4~5歳頃から,他者の視点に立ち,明示的に心の状態を理解するようになることが知られている(e.g., Wellman et al., 2001)。しかしながら,大人になっても,自分の有する知識によって,他者の心的状態をとらえてしまう「自己中心性バイアス」がみられることが知られている(e.g., Epley et al., 2004)。
これまで,自己中心性バイアスの存在は,「他者の見えや誤信念の理解」といった認知的領域での研究が主であった。本研究では,「他者の感情の理解」という情動的領域でも,同様に自己中心性バイアスが見られるどうかを検討する。

方 法
 参加者 小学校2年生102人,6年生101人,高校1年生5年生103人,および大学生110人を対象とした。
課題 先行研究(e.g., Yuill & Perner, 1988)を参考に,2つのお話で構成された4場面を用意した。4場面のうち2場面は,主人公が相手の行為で被害を受けて悲しむ「ネガティブ状況」で,2場面は,主人公が相手の行為で助けてもらって喜ぶ「ポジティブ状況」であった。各場面の2つのお話の違いは,相手の行動が意図的なのか偶発的なのかであった。
また,「知識あり条件」と「知識なし条件」を参加者間要因として設定した。知識あり条件では,4場面とも,参加者が相手を見ていたので,相手の行為が意図的か偶発的かを知っている状況とした。知識なし条件は,参加者がその場にいなかったので,相手の行為が意図的か偶発的かを知らない状況とした。予備調査によって,この設定の妥当性を確認した。
質問として,(ストーリーの理解に関する)「確認質問(例:わざと壊したのは,どちらの女の子か?」,「感情理解質問(例:より悲しいのは,どちらの男の子か?)」
手続き 「知識あり条件」と「知識なし条件」のそれぞれで,ストーリーの順序を変えた2種類を用意し,合計4種類の調査用紙を作成した。小学生には,母親(父親)の力を借りて,お話と質問を順に読み上げてもらい,進めてもらった。高校生にはクラス単位で,大学生にはランダムに2種類を配布し,個人のペースで進めてもらった。

結 果
 確認質問 知識あり条件では,高校生1人が,4場面すべてで誤答もしくは空欄であったため,分析から場外した。知識なし条件では,小学2年生1人と高校生2人が,4場面すべてで誤答もしくは空欄であったため,分析から除外した。
感情理解質問 バイアスの程度を検討するため,「差得点」を算出した。まず,先行研究(Hayashi, 2015)を参考に,相手の意図的な行為で被害を受けた(助けてもらった)主人公の方が,相手の偶発的な行為で被害を受けた(助けてもらった)主人公より,悲しんでいる(喜んでいる)と判断した場合に「+1」を割り当てた。逆に,偶発的な行為による場合の方が意図的な行為による場合より悲しんでいる(喜んでいる)と判断した場合に「-1」を割り当てた。どちらの主人公も同自程度に悲しんでいる(喜んでいる)と判断した場合に「0」を割り当てた。ネガティブ状況の2場面の平均値と,ポジティブ状況の2場面の平均値を,それぞれの状況の「差得点」とした。確認質問に誤答して1場面の値しかない場合は,それを「差得点」とした。各場面に分けて,年齢群ごとに算出した差得点の平均値を,Figure 1に示す。
t検定の結果,差得点の平均値は,ネガティブ場面とポジティブ場面の両方のすべての年齢群で,有意に0より大きかった。このことから,年齢や状況を問わず,感情理解における自己中心性バイアスが生じることが明らかになった。
次に,年齢×条件×状況の3要因分散分析の結果,年齢と条件の主効果が有意だった。状況の主効果は見られず,ネガティブとポジティブの状況の違いによって自己中心性が生じる強さに差がないことが明らかになった。年齢×条件の交互作用が有意で,下位検定の結果,知識なし条件で,小学2年生と6年生の差得点が,高校1年生と大人より高かった。また,各年齢で,知識あり条件の方が高かった。このことから,感情理解の自己中心性バイアスは小学生において強く生じ,年齢が増すにつれて弱まることが明らかになった。
考 察
以上より,認知的領域のみならず情動的領域においても,自己中心性バイアスが生じることが明らかになった。とくに小学生で強く,年齢とともに弱まったことから,このメカニズムとして,「知識の呪縛(curse of knowledge)」による説明(e.g., Birch et al., 2017)が可能かもしれない。

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