発表

1PM-091

運動・身体活動の実践が高齢夫婦の精神的健康と夫婦関係に及ぼす影響

[責任発表者] 原田 和弘:1
[連名発表者] 増本 康平:1, [連名発表者] 近藤 徳彦#:1
1:神戸大学

目 的
 高齢者の精神的健康を効果的に支援する方法を確立することは、高齢者領域における心理学研究の重要な課題である。これまでの多くの研究によって、運動・身体活動の実践が、高齢者本人の精神的健康に良い影響を及ぼすことが明らかにされている。精神的健康の夫婦間の相互影響に関する先行研究を踏まえると、運動・身体活動の実践は、本人だけでなく、配偶者の精神的健康にも良い影響を及ぼす可能性がある。もしこのことが実証されれば、運動・身体活動の恩恵を検証する上では、本人への恩恵だけではなく、周りの人々への恩恵まで範囲を広げて検証することの重要性を提起できる。
また、様々な運動・身体活動の中でも、どのような種類の活動が、精神的健康に対して特に好影響をもたらすのかについても、現在、解明が進んでいる。最新の動向を踏まえると、一人で実践するよりも、他の人とこれらの活動を実践することが、精神的健康に対して特に重要である可能性がある。
本研究では、運動・身体活動の実践が高齢者本人および配偶者の精神的健康と夫婦関係に対して望ましい影響を及ぼすかどうかと、これらの望ましい影響は、他の人と一緒に実践している人において顕著であるかを検証した。

方 法
【研究対象と手続き】兵庫県下の4つの自治体の住民基本台帳から無作為抽出された、2016年 4 月1日時点で59歳、64歳、69歳の男性とその配偶者69組(138名)に対して、事前調査(T1)と1年後の追跡調査(T2)を実施した。以下に示す調査項目を、T1とT2でそれぞれ評価した。
【運動・身体活動の測定】連続7日間、日誌と活動量計(Active Style Pro HJA-750C:オムロンヘルスケア社)を用いて、一人での運動時間、他者との運動時間、日常の身体活動量(低強度の歩行時間、低強度の生活活動時間、中高強度の歩行時間、中高強度の生活活動時間)を測定した。
【精神的健康と夫婦関係の測定】質問紙を用いて、精神的健康のポジティブな状態を評価する尺度(WHO–5 精神健康状態表簡易版、以下WHO5尺度:稲垣他,2013)、精神的健康のネガティブな状態を評価する尺度(K6尺度:Furukawa et al., 2008)、および愛情尺度(伊藤・相良,2012)を評価した。
【解析】個人を単位としたパス解析(交差遅延効果モデル)によって、T1の運動・身体活動に関する6つの指標のうち、どの指標が、T2の本人の精神的健康・夫婦関係に影響しているかを分析した。また、本人の精神的健康や夫婦関係に有意な影響を及ぼす運動・身体活動指標については、夫婦を単位としたパス解析(交差遅延効果モデル)も行い、配偶者の精神的健康・夫婦関係へも影響を及ぼしているかを検証した。

結 果
 個人を単位とした解析の結果、運動・身体活動に関わる6つの指標のうち、他者との運動時間(T1)が長いことが、本人のWHO5尺度(T2)に対して有意な影響を与えていた。(パス係数=0.17)しかし、夫婦を単位とした解析において、本人の他者との運動時間(T1)は、配偶者のWHO5尺度(T2)に対して有意に影響していなかった。また、運動・身体活動に関するいずれの指標(T1)も、K6尺度や愛情尺度(T2)に対して、有意に望ましい影響を与えていなかった。

考 察
他の人と一緒に運動を実践することは、本人のポジティブな精神的健康に対して、望ましい影響を与えていることが明らかとなった。このことは、運動・身体活動を構成する要素の中でも、他の一緒に行うという要素が、精神的健康の向上に対して特に重要な要素であることを示唆している。運動・身体活動が精神的健康に影響を及ぼす機序として様々な機序が想定されているが、本研究の結果に従うと、様々な機序の中でも、社会的交流を媒介する機序が最も強いものである可能性がある。
 一方、本研究では、他の人と一緒に運動を実践することが、配偶者の精神的健康・夫婦関係に及ぼす影響は明らかとならなかった。先行研究でも、夫婦の一方の身体活動が、夫婦の他方の精神的健康へ直接的に及ぼす効果は支持されていない(Monin et al., 2015)。本研究や先行研究(Monin et al., 2015)の知見を踏まえれば、他の人と一緒に運動を実践することは、本人の精神的健康には望ましい影響があるものの、配偶者への波及的影響は限定的であると考えられる。

引用文献
Monin, J. K. et al. (2015). Husbands’ and Wives’ Physical Activity and Depressive Symptoms: Longitudinal Findings from the Cardiovascular Health Study. Annals of Behavioral Medicine, 49(5), 704–14.
Nakane, Y., et al. (2008). The performance of the Japanese version of the K6 and K10 in the World Mental Health Survey Japan. International Journal of Methods in Psychiatric Research, 17(3), 152–8.
稲垣宏樹,ほか. (2013). WHO–5 精神健康状態表簡易版(S–WHO–5–J)の作成およびその信頼性・妥当性の検討. 日本公衆衛生雑誌, 60(5), 294-301.
伊藤裕子, 相良順子. (2012). 愛情尺度の作成と信頼性・妥当性の検討―中高年期夫婦を対象に―. 心理学研究, 83(3), 211-216.

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