発表

1AM-113

超高齢者の空間的視点取得能力を測る──SONIC研究におけるラインマップテストの実施──

[責任発表者] 武藤 拓之:1,2
[連名発表者] 権藤 恭之:1, [連名発表者] 稲垣 宏樹:3, [連名発表者] 増井 幸恵:3, [連名発表者] 小川 まどか:3, [連名発表者] 沼田 恵太郎:4, [連名発表者] 小野口 航:5, [連名発表者] 石岡 良子:6, [連名発表者] 内芝 綾女:1, [連名発表者] 田渕 恵:7
1:大阪大学/日本学術振興会, 2:日本学術振興会, 3:東京都健康長寿医療センター研究所, 4:大阪成蹊短期学, 5:早稲田大学, 6:慶應義塾大学, 7:中京大学

 自分の視点とは異なる視点に立って物の空間的位置関係を把握する認知過程は空間的視点取得と呼ばれる。空間的視点取得能力を測定するコンピュータ化テストとして,武藤・森川 (2018) が開発したラインマップテスト (LMT) がある。LMTは,回答方法の単純さと所要時間の短さから多様な母集団に適用できることが期待されるテストである。また,反応の正誤と反応時間 (RT) の両指標を用いることにより豊かな情報を引き出すことも可能である。本研究は,85─87歳の超高齢者を対象にLMTを実施し,その有効性を確認することを目的とした。また,武藤・森川 (2018) で得られた若年者のデータ (N = 40, 19─31歳) と結果を比較することにより,空間的視点取得能力の加齢変化の特徴も明らかにしようと試みた。
方 法
分析対象 2017年度に東京都と兵庫県で行われたSONIC研究に参加した85─87歳の地域在住高齢者のうち,認知機能検査 (MoCA-J) を問題なく遂行し,LMTを行うことのできた427名 (男性220名・女性207名) のデータを分析対象とした。
LMTの手続き LMTは,パソコンの画面上に提示された俯瞰図 (Fig. 1) の丸印を道に沿って前に先に進めていくテストである。対象者の課題は,丸印の進行方向に向かって次の曲がり角が左右どちらに曲がっているのかをなるべく速く正確にキー押しで回答することであった。いずれかのキーを押すことにより丸印が次の曲がり角の手前まで進み,地図の最後まで進むと新たな地図が現れた。全て回答し終えるか60秒経過した時点でテストは終了した。
正答数から誤答数を引いた数をLMT得点とした。LMT得点は最大40点で,0点以下はチャンスレベル以下の正答率を意味する。平均 RTを推定する際には,RTが0.2秒以上かつM + 3 SD未満の正答試行のデータのみを使用した。
結 果
 テスト終了時点でのLMT得点のヒストグラムをFig. 2に示す。高齢者の23.7% (男性47名・女性54名) は正答率がチャンスレベル以下であったため,以下の分析からは除外した。男性の平均LMT得点は女性よりも7.6点高かった (p < .001)。
 Fig. 3は,高齢者と若年者の平均LMT得点をLMTの経過時間ごとにプロットした図である。高齢者は若年者よりも1秒あたりの得点の増分が小さいことがこの図から読み取れる。
 Fig. 4は,取得する視点の向き (角度) ごとの平均誤答率および平均RTを線形混合モデルにより推定した結果である。年代にかかわらず,角度が0°から180°に近づくにつれて誤答率とRTが増加する傾向が見られた (ps < .001)。また,高齢者は若年者よりも誤答が多く,RTも長かった (ps < .001)。加えて,年代と角度の交互作用も両指標で認められた (ps < .033)。
考 察
 角度の増大に伴う誤答率とRTの増加および得点の性差は,これまでの空間的視点取得研究 (e.g., Muto et al., 2018) の結果と一致するものであり,LMTが超高齢者の空間的視点取得能力を測定できたことを示す証拠であるといえる。また,本研究で示された誤答率とRTのパターンの年代間差は空間的視点取得能力の加齢変化に関する新たな知見を提供するものである。ただし,パソコン操作に対する慣れのような別の要因の影響も考えられるため,解釈は慎重に行う必要がある。
引用文献
Muto, H., Matsushita, S., & Morikawa, K. (2018). Spatial perspective taking mediated by whole-body motor simulation. Journal of Experimental Psychology: Human Perception and Performance, 44, 337-355.
武藤 拓之・森川 和則 (2018). 空間的視点取得能力を測定するコンピュータ化テスト──ラインマップテスト (LMT) の開発とその信頼性・妥当性の検証── 日本認知心理学会第16回大会発表論文集.

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