発表

3AM-084

感謝表出が負債感と主観的幸福感に与える影響

[責任発表者] 蔡 羽淳:1
[連名発表者] 内芝 綾女:1, [連名発表者] 武部 桜子#:1, [連名発表者] 豊島 彩:1
1:大阪大学

目 的
我々は他者の援助や贈物を受領するとき感謝を感じる。そのとき,経験する感謝には「ありがたい」と「申し訳ない」という気持ちの2つが生じることがある。この「申し訳ない」という気持ちは負債感と呼ばれる。負債感とは感謝の一種であり,「相手にわるいなという気持ち」「心苦しい」といった感情(Naito et al., 2005; Wangwan, 2005)もしくは「お返しをしなければいけない」という他者に対して返報の義務がある状態(Greenberg, 1980)であると定義されている。我々が援助してくれた相手に感謝を伝えるためではなく,自らの負債感を低くするために感謝表出を行うのではないか。また,感謝を伝えなかった場合,負債感が高まり主観的幸福感が低くなることが考えられる。したがって,本研究では感謝感情生起場面において,被援助者の「ありがとう」「すみません」という感情表出は負債感と主観的幸福感に対してどのような影響を与えるかを検討することを目的とした。仮説は感謝表出が不可能な状況では,負債感は高まり主観的幸福感は低くなるとした。
方 法
対象者 本実験では近畿圏B大学の学生32名(男性8名,女性24名)を対象とした。また,実験参加者は無作為に実験群16名,統制群16名に割り振られた。
測定尺度と実験刺激 負債感に関しては,心理的負債感尺度(相川ら,1995)を用いて6件法で回答を求めた。感謝特性に関しては,感謝特性尺度邦訳版(白木ら,2014)を用いて,7件法で回答を求めた。主観的幸福感に関しては,主観的幸福感尺度(伊藤ら,2003)を用いて,4件法で回答を求めた。また,日本語版のPANAS(佐藤ら,2001)を用いて,ポジティブ感情とネガティブ感情を測定した。実験刺激においては,蔵永・樋口(2011)の感謝生起場面における被援助状況・贈物受領状況・他者負担状況の3場面各2項目に関して,感謝対象となる他者を変えた項目を作成して,付加した22項目を用いた。また,感謝生起場面のうち申し訳なさを感じない平穏状況・状態好転状況の2場面6項目をダミー項目として追加して,計28項目を呈示した。
実験の手続き 対象者にはまず感謝特性尺度邦訳版,心理的負債感尺度,主観的幸福感尺度を尋ねた。その後,場面想定法による実験を行った。呈示した各場面について「この場面であなたは相手に対して何といいますか?」という質問に対して,5項目の選択肢によって回答を求めた。実験群には感謝表出の言葉を抜いた選択肢を設定した。実験後,再び負債感と主観的幸福感を測定して,日本語版PANASを用いて,ポジティブ感情とネガティブ感情を測定した。
倫理的配慮 本実験はB大学倫理委員会の承認を得て行った(承認番号:29-050)。
結 果
 感謝表出と主観的幸福感が群によって異なるかを検討するために,群(感謝表出あり・感謝表出なし)×主観的幸福感(実験前・実験後)の2要因混合計画の分散分析を行った。その結果,主観的幸福感の主効果が見られた(F(1,30)=9.20, p=.005)。両群において実験前と比較して,実験後は主観的幸福感が有意に低下していたことが分かった(図1)。
また,感謝表出と心理的負債感が群によって異なるかを検討するために,群(感謝表出あり・感謝表出なし)×心理的負債感(実験前・実験後)の2要因混合計画の分散分析を行った。その結果,有意な主効果および交互作用は認められなかった(図2)。さらに,実験後のポジティブ感情とネガティブ感情が群によって異なるかを検討するために,t検定を行った。その結果,ポジティブ感情とネガティブ感情の両方において有意差は見られなかった。
考 察
 本実験では感謝生起場面において,被援助者の「ありがとう」「すみません」という感情表出が負債感と主観的幸福感に対して,どのような影響を及ぼすかを検討することを目的として,大学生を対象に場面想定法による実験を行った。まず,感謝表出の有無にかかわらず,実験前と比較して実験後の主観的幸福感が有意に低下していることから,本実験の仮説を支持しない結果となった。実験場面によって,「相手に何かをしてもらう状況」を想定してもらったため,幸福感に含まれる一般的自己効力が低下したためではないかと考えられる。また,心理的負債感に関しては,有意な結果は得られなかった。このことから,本実験の仮説を支持せず心理的負債感は感謝表出による影響を受けないということが分かった。したがって,心理的負債感を低減させるために「ありがとう」「すみません」などの感謝表現を行っているのではなく,純粋な感情の表現ではないかと考えられる。
以上のことより,本実験で行った感謝の言葉を表現する行動自体が幸福感や負債感に与える効果は小さいということが示唆された。さらに,対象者は実験の不自然を感じた可能性があり,実験の手続きに関して検討する必要があると考えられる。

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