発表

2PM-084

かわいさのプライミングが社会的価値志向性に及ぼす影響

[責任発表者] 吉田 綾乃:1
[連名発表者] 金井 嘉宏:2, [連名発表者] 川本 大史#:3, [連名発表者] 入戸野 宏:4
1:東北福祉大学, 2:東北学院大学, 3:中部大学, 4:大阪大学

目的 本研究では「かわいい」が他のポジティブ感情とは異なる独自の感情であり、その特異性が個人間過程、とりわけ向社会的行動に現れると予測し、検討する。近年、金銭プライミングが向社会的行動や保護行動を低下させ独立的行動を増加させること、他者から距離を置き、個人的目標の実現のための努力を引き起こすことが明らかになっている(e.g., Vohs, 2015)。一方、入戸野(2015)は、「かわいい」は社会的な接近動機づけを伴うポジティブ感情であると述べている。そこで、本研究では金銭プライミング条件や統制条件よりも、かわいいプライミング条件において向社会的行動が促進されるであろうと予測する。なお、プライミング操作は及川(2005a)の乱文構成課題を用いた手続きに準じ、向社会的行動の測定には、社会的価値志向性(Social Value Orientation: SVO)を用いる。SVOは利他性や他者配慮的選好の個人差を説明する変数であり、これまでにMurphy, Ackermann, & Handgraaf (2011)が利他性を連続量で測定するスライダー法を開発している。また、「かわいい」に関する研究がベビースキーマの文脈から検討されてきたことを踏まえ、研究2では成熟した動物のシルエット判断課題に従事した者よりも、幼い動物のシルエット判断課題に従事した者において、利他的な分配行動が行われると予測し検討を行うこととする。さらに、「かわいい」感情の強度や引き起こされる状況に性差が確認されていることから(e.g., 金井・入戸野, 2015)、性差の影響についても併せて検討を行う。
方法 分析対象者:研究1は363名(男性170名・女性193名、平均年齢19.55歳、SD = 0.78)。研究2は269名(男性155名・女性114名、平均年齢19.37歳、SD = 0.59)。研究1手続き:Time 1とTime 2の2回調査を実施した。Time 1ではSVO(Murphy, et al., 2011)、特性向社会性尺度(川本他, 2018)、TIPI-J(小塩・安倍, 2012)を測定した。Time 2は、乱文構成課題を用いたプライミング操作(かわいい/金銭/統制)後、PANAS(佐藤・安田, 2001)、SVO、状態向社会性尺度(川本他, 2018)、操作チェック項目(プライミング課題への気づき2項目、日常的感情体験頻度4項目7件法)を測定した。プライミング課題とその後の質問項目は無関連であることが強調された。かわいいプライム語は「子ども」「赤ちゃん」「可愛がる」など、金銭プライム語は「お金」「利益」「支払う」などを使用した。SVO値は高得点ほど利他的であることを示す。研究2手続き:Time 1は研究1と同様であった。Time 2は、シルエット判断課題(成熟/幼い)の後、PANAS、SVO、状態向社会性尺度、操作チェック項目を測定した。シルエット判断課題では、好きな順番に9種類の動物のシルエットを並べ替え、その理由を自由記述で回答することを求めた。
結果 本稿ではSVOの分析結果のみを報告する。研究1では、操作チェックにおいて仮説に関連するプライミングへの気づきを報告した者を分析から除外した。Time 2の値からTime 1の値を減じることによりSVO変化量を算出した。変化量に対して、Time 1のSVOを共変量に投入し、性別と条件を要因とした2要因共分散分析を行ったところ、条件の主効果(F(2,356)= 0.51, ns, ηp2 = .00)、性別の主効果(F(1,356)= 1.05, ns, ηp2 = .00)、交互作用に有意差は認められなかった(F(2,356)= 0.41, ns, ηp2= .00)。研究2においても同様にSVO変化量を算出した。Time 1のSVOを共変量に投入し、性別と条件を要因とした2要因共分散分析を行った。条件の主効果(F(1,264)= 0.01, ns, ηp2= .00)、性別の主効果(F(1,264)= 0.00, ns, ηp2 = .00)、交互作用に有意差は認められなかった(F(2,264)= 0.37, ns, ηp2 = .00)。記述統計量をTable 1に示した。
考察 研究1.2ともにかわいさのプライミングが社会的価値志向性に及ぼす効果は確認されなかった。及川(2005b)は、単語記憶課題を用いた利己主義的目標プライミングが、分配行動に影響することを報告している。よって、本研究のプライミング刺激の強度、抽象度や刺激の処理レベルがこれらの結果に影響した可能性が考えられる。なお、本研究で用いたSVOは見知らぬ他者に対する分配行動を測定している。かわいい感情は共感や視点取得と関連していることが明らかになっている(金井・入戸野, 2015)。Bloom(2016)は、共感が特定の対象に注意を向けさせ援助行動を生じさせる「身元の分かる被害者効果(identifiable victim effect)」を引き起こすが、その反面、共感の対象とならない人物に無関心になってしまうと論じている。かわいさのプライミングは、内集団成員に対する社会的接近動機を高め、彼らに対する利他的行動のみを促進するのかもしれない。今後さらなる研究が必要である。

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