発表

1AM-092

防止焦点は認知資源の温存効果に優れているのか?

[責任発表者] 外山 美樹:1
[連名発表者] 湯 立:2, [連名発表者] 肖 雨知:2, [連名発表者] 長峯 聖人:2, [連名発表者] 三和 秀平:3, [連名発表者] 相川 充:1
1:筑波大学/教育テスト研究センター(CRET), 2:筑波大学/教育テスト研究センター(CRET), 3:関西外国語大学/NPO法人教育テスト研究センター(CRET)

【問題と目的】
Higgins(1997)の制御焦点理論では,人の目標志向性を促進焦点(promotion focus)と防止焦点(prevention focus)の2つに区別している。促進焦点は希望や理想を実現することを目標とし,進歩や獲得(gain)の在・不在に焦点を当てる目標志向性である。一方,防止焦点は義務や責任を果たすことを目標とし,安全や損失(loss)の在・不在に焦点を当てる目標志向性である。
Toyama et al.(2018)は,制御完了(regulatory closure;目標が達成されているかどうか)の観点から,制御焦点とパフォーマンスの関連を検討した。その結果,制御未完了(ある目標が未達成)条件では促進焦点と防止焦点でパフォーマンスに差が見られないが,制御完了(ある目標が達成される)条件では,防止焦点は促進焦点よりも,後続のパフォーマンスが低いことが示された。こうした知見に関して,本研究では,認知資源の温存の観点から,制御焦点とパフォーマンスの関連を検討することを目的とした。本研究の仮説は「後続課題(課題3)の優先順位が高い場合にのみ,防止焦点は促進焦点に比べ,認知資源の温存動機づけが高く(仮説1),課題2のパフォーマンスが低い(仮説2)。一方で温存している課題3のパフォーマンスが高い(仮説3)」である。
【方法】
実験参加者 大学生64名(男性28名,女性36名;平均年齢19.39±1.08歳)。
実験計画 制御焦点(促進,防止)と課題の優先順位(high, not high)の2要因を独立変数とする実験参加者間計画。
制御焦点の操作 促進焦点条件(n=32)では,実験参加者の課題全体の成績が,一般大学生の平均以上(上位50%以内)の成績に入るように教示し,防止焦点条件(n=32)では,平均以下(下位50%以内)の成績に入らないように教示した。
課題の優先順位の操作 課題1終了後に行った,課題2と課題3の説明の内容によって,課題3の優先順位を操作した。優先順位high条件(n=32)では“課題3は非常に集中力を要する課題であるため,課題2よりも課題3のほうが,得点の比重が高い”と教示し,優先順位not high条件(n=32)では“課題2と課題3で要する集中力は同程度であり,課題2と課題3の成績で全体の成績を出す”と教示した。
実験課題と実験手続き 実験は1人ずつ実験室で行った。まず,制御焦点の操作を行った後に,課題1(条件つきタイピング課題)を実施した。続いて,課題2を実施する前に,課題3の優先順位の操作を行った。その後,課題2(ストループ課題:箱田・渡辺,2005)を実施した。課題2の後に,「温存動機づけ」の質問項目5項目に回答してもらった。最後に,課題3(計算課題20問,制限時間10分)を実施した。
【結果と考察】
仮説1の検証 制御焦点(促進焦点,防止焦点)と課題の優先順位(high,not high)を独立変数,温存動機づけ得点を従属変数とする2要因分散分析を行った。その結果,交互作用(F(1, 60)=8.54, p=.01, η²p=.13)が有意となった。制御焦点の単純主効果は,優先順位high条件においてのみ有意となり(F(1, 60)=11.24, p=.00, η²p=.16),防止焦点条件が促進焦点条件よりも温存動機づけ得点が高かった。課題の優先順位の単純主効果は,防止焦点条件においてのみ有意となり(F(1, 60)=12.22, p=.00, η²p=.17),優先順位high条件が優先順位not high条件よりも温存動機づけ得点が高かった。よって,仮説1が支持された。
仮説2の検証 制御焦点と課題の優先順位を独立変数,課題2のパフォーマンス(ストループ干渉率)を従属変数とする2要因分散分析を行った。その結果,交互作用(F(1,60)=4.44, p=.04, η²p=.07)が有意となった。制御焦点の単純主効果は,優先順位high条件においてのみ有意となり(F(1, 60)=4.47, p=.04, η²p=.07),防止焦点条件が促進焦点条件よりもストループ干渉率が高かった(パフォーマンスが低かった)。課題の優先順位の単純主効果は,防止焦点条件においてのみ有意となり(F(1, 60)=19.67, p=.00, η²p=.25),優先順位high条件が優先順位not high条件よりもストループ干渉率が高かった(パフォーマンスが低かった)。よって,仮説2が支持された。
仮説3の検証 制御焦点と課題の優先順位を独立変数,課題3のパフォーマンス得点を従属変数とする2要因分散分析を行った。その結果,交互作用(F(1, 60)=4.04, p=.047, η²p=.06)が有意となった。制御焦点の単純主効果検定は,優先順位high条件においてのみ有意傾向となり(F(1, 60)=3.67, p=.06, η²p=.06),防止焦点条件が促進焦点条件よりも課題のパフォーマンス得点が有意傾向で高かった。課題の優先順位の単純主効果は,防止焦点条件においてのみ有意となり(F(1, 60)=5.52, p=.02, η²p=.08),優先順位high条件が優先順位not high条件よりもパフォーマンス得点が高かった(Figure 1)。よって,仮説3が支持された。

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