発表

3AM-082

読書・インターネット利用と進行中の言語変化―ガ/ノ交替に着目して―

[責任発表者] 水野 奈津美:1
[連名発表者] 和田 裕一:1, [連名発表者] 深谷 優子:1, [連名発表者] 新国 佳祐:1
1:東北大学

目 的
 日本語におけるガ/ノ交替と呼ばれる格交替現象(例えば,[1a-c])は,過去約100年程度の間にその出現頻度を徐々に減少させている(小川, 2016)。
(1)a.窓ガラスが/の割れた部屋は立ち入りが禁止されている。
b.荷物が/の届いた時刻は夕方の四時頃であった。
c.夕焼けが/の赤いことは考えてみると不思議である。
その出現頻度の減少と符合するように,同時代を生きる(成人以上の)母語話者はその年齢が若いほどガ/ノ交替を容認しにくい傾向にあることが確認されている(新国他, 2017; Ogawa et al., in press)。Haradaや新国他はそれが言語変化を反映する容認性の世代間差であると主張しているが,一方で,上記の結果は年齢差,すなわち言語獲得期以降の様々な言語的活動の影響や蓄積により,話者個人が年齢を重ねるごとにガ/ノ交替を容認しやすくなっていることに起因する可能性もある。そこで本研究では,過去/現在の読書習慣とインターネット利用という二つの言語的活動に着目し,これらがガ/ノ交替の容認性にどのような影響を与えているかを検討する。
方 法
参加者 20〜29歳の日本語(東京方言)母語話者400名を対象とした。
容認性判断課題刺激文 (1a-c)のタイプのガ主語文(窓ガラスが割れた...)とノ主語文(窓ガラスの割れた)のペア各六つ,合計18ペアを用意した。これらのタイプの刺激文はすべて,先行研究によりガ主語文に対してノ主語文が話者の年齢が若いほど容認されにくいことが確認されていた(a,bについては新国(2017),cについてはOgawa et al. (in press) を参照)。その他に,フィラー文30ペアを用意した。
読書習慣質問項目 現在の読書習慣を尋ねる質問項目(選択肢)として,以下を設定した。
質問文:「あなたはこの一ヶ月に,何冊くらいの本を読みましたか。」(0冊/1冊/2〜3冊/4〜5冊/6〜9冊/10冊以上)
 また,過去の読書習慣を尋ねる質問項目として,以下を設定した。この質問項目は,1) 小学校入学から卒業まで,2) 中学校入学〜成人するまでの各期間についてそれぞれ尋ねた。
質問文:「これまでを振り返って,それぞれの時期でどれくらい本を読みましたか。」(“ほとんど読まなかった”〜“とてもよく読んだ”まで5段階評定)
 それぞれの質問項目では,「本」とは日本語で書かれたものを指し,かつ漫画や雑誌,新聞,教科書や参考書は含めず考えるよう教示した。
インターネット利用頻度質問項目 インターネット利用頻度を尋ねる質問項目として,以下二つの質問を設定した。
質問文1:「あなたは普段,どのくらいの頻度でインターネットを利用してニュース記事等を読みますか。」(ほとんど読まない/週に1〜2回/週に3〜4回/1〜2時間/2〜3時間/3時間以上)
質問文2:「あなたは普段,ブログやウェブサイトを1日あたりどれくらいの時間利用しますか。」(まったくしない/30分未満/30分〜1時間/1〜2時間/2〜3時間/3時間以上)
 質問項目はこれら以外にも設けられたが,いずれも重回帰分析におけるモデル適合度への寄与が認められなかったため,記述を省略する。
手続き 調査はWeb調査の形式で行われた。文の容認性判断課題は新国他(2017)に従い,1:とても不自然に感じる〜5:とても自然に感じるの5段階でガ主語文・ノ主語文の容認性を評定させ,各ペアについてノ主語文の評定値からガ主語文の評定値を引いた差分をガ/ノ交替容認性として定義した。
結 果
 ストレートライナーなど回答が不適切と判断された参加者94名のデータを除外し,ガ/ノ交替容認性を目的変数,各質問項目への回答を説明変数とする重回帰分析を行った。表1に回帰モデルのパラメタ値を示す。

考 察
調査から,同世代の話者であれば,i)中学校〜成人までの読書経験が多いと回答した話者ほどガ/ノ交替を容認しやすく,ii)インターネット(特に,ブログやウェブサイト)利用頻度が高いと回答した話者ほどガ/ノ交替を容認しにくいという結果を得た。i)の結果と,現在の読書習慣がガ/ノ交替容認度にほとんど影響していないことを踏まえると,読書による豊かな言語的インプットは確かに頻度を減らしつつある言語現象への高い容認性につながるが,それはおおよそ12-20歳の期間に限定的であり,単に話者個人の発達とともに累積する言語的インプットの量に比例して当該言語現象への容認性が高まるわけではないことが示唆される。また,ブログやウェブサイト上の言語情報は,様々な年代の文法が反映されうる書籍のような出版物(小川, 2016)とは異なり,多くは言語変化の進んだ最新の文法に支配されていることが想定されるが,ii)の結果から,そのような特徴を持つ言語情報に多く触れることは結果的に言語変化の加速につながっている可能性が考えられる。

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