発表

3AM-077

健常高齢者における記憶モニタリングと精神的健康度との関連

[責任発表者] 林 敦子:1
[連名発表者] 大竹 恵子:2
1:神戸大学, 2:関西学院大学

目 的
 健常高齢者において物忘れに対する関心は非常に高い。認知症の前段階である軽度認知機能障害には「本人の記憶障害の訴え」がみられる場合があるが、その訴えは 病識や物忘れの自覚とともに記憶に対する自己評価(メタ記憶)と密接な関連があると考えられる。本研究では健常高齢者、学生を対象として、エピソード記憶に関するメタ記憶と実際の想起との関連、語彙的知識(ここでは漢字)に関するメタ記憶と想起(漢字の書取)との関連について検討を行う。
高齢者が意欲を持って暮らしていくために認知機能と併せて精神状態が良好であることは重要である。抑うつの程度、主観的幸福感といった精神的な健康状態について評価し、メタ記憶・実際の想起との関連についても検討する。

方 法
対象 健常高齢者31人。73.5(±6.8)歳、男性12人、女性19人、MMSE(Mini mental state examination):平均29.1(±1.2)点。学生34人。21.4(±1.3)歳、男性6人、女性28人。
課題 (1)エピソード記憶課題:1) 漢字2文字単語10個を1個ずつ3秒間パソコン画面に継時呈示した。10個を覚えるよう教示し、覚えたものを直後再生させた。2) 10分後にいくつ思い出せると思うかを尋ねた(見積もり数)。1) 2)を2試行(20単語)した後で、3) 2試行合わせて10分後に遅延再生させた。
(2)語彙的知識に関する記憶課題:1)目標となる漢字2文字単語を平仮名表記し下線を付けたものを含む40短文を1文ずつPC画面に呈示し、漢字をどの程度思い出せるかを、「完全に思い出せる~全く思い出せない」の4件法で評定してもらった(想起の程度)。2)40単語の漢字書取(2文字/1文字正解で各2点/1点)を施行した。3)書取直後に「非常に自信がある~全く自信がない」の4件法で確信度を評定した。
 課題(1)、(2)の漢字刺激材料は、NTTデータベース(天野ら、2000)から文字音声単語親密度5.0以上で、教育基本語彙(国立国語研究所、2001)に載っているものを用いた。
(3)精神的健康度に関する尺度:1. 日本版主観的幸福感尺度(4項目の平均、1~7点)2. CES-D(The Center for Epidemiologic Studies Depression Scale)うつ病(抑うつ状態)自己評価尺度(20項目4件法、0~60点)を用いた。

結 果 と 考 察
 健常高齢者、学生各群におけるエピソード記憶と語彙的知識に関する記憶のメタ記憶と想起、精神的健康度に関する尺度の各得点、被験者群間の比較の結果を表1に示す。被験者各群における各課題の得点間の相関結果を表2に示す。
メタ記憶と想起課題の関連については、エピソード記憶においてメタ記憶と実際の想起との相関は学生群にのみみられた。語彙的知識に関する記憶については、メタ記憶と実際の想起との相関が学生・高齢者両群にあり、加齢による影響が記憶の種類によって異なる可能性が考えられる。

エピソード記憶において、学生は見積もり数が遅延再生数よりも有意に少なかったのに対し、高齢者では見積もり数が遅延再生数よりも有意に多かった。エピソード記憶に関するメタ記憶は若年者に比べて高齢者で能力の低下がみられ、実際の想起の予測が難しくなる可能性が考えられる。若年者は記憶に対する不安が強い(金城ら, 2013)とされ、その影響があるかもしれない。精神的健康度とメタ記憶・想起課題の関連については、学生にのみ主観的幸福感と見積もり数に相関を認めた。主観的幸福感尺度の得点が高いと楽観的な見積もりをする傾向にある可能性が考えられる。健常高齢者の場合、精神的な健康度が記憶課題など特定の課題状況にそれほど影響しないことが示唆される。
引用文献
天野 成昭・近藤 公久 (2000). 日本語の語彙特性 三省堂
国立国語研究所 教育基本語彙の基礎的研究 明治書院, 東京, 2001.
金城 光ら (2013). 認知心理学研究, 11, 31-41.
謝辞:科研費(基盤研究(c) 課題番号:16K04360)の助成を受けた。

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