発表

3EV-048

意図的行為に基づいたモノの所有感

[責任発表者] 佐々木 恭志郎:1,2,3
[連名発表者] 渡邊 克巳:1, [連名発表者] 山田 祐樹:2
1:早稲田大学/九州大学/日本学術振興会, 2:九州大学, 3:日本学術振興会特別研究員

目的
「モノを所有している」という感覚 (物体所有感) はどのようにして生まれているのだろうか。これまでに,行為主体感 (自身の行為が外界の変化を引き起こしているという感覚) が身体の所有感を形成していることが示されている (e.g., Asai, 2016)。本研究では,物体所有感の形成にも関与していると考え,行為主体感の操作により物体所有感が変調されるかを検討した。先行研究より,行為と行為結果の一致性は行為主体感に影響を与える (e.g., Ebert & Wegner, 2010)。ゆえに,本研究では行為と行為結果の一致性を変えることで行為主体感を操作した。行為と行為結果が一致する場合は,不一致の場合に比べて行為主体感は高くなるので,物体所有感も強くなると予測した。
実験1
方法 参加者は男女10名であった。実験はゲームセッションと評定セッションの二種類で構成されていた。ゲームセッションでは,参加者は画面上の玉をマウスにより操作し,黒い穴に入れるという課題を120試行実施した。参加者は持ち点100点からゲームを開始し,2つの玉 (赤,緑,青の中から2つ) を使用した。各試行で,4秒以内に穴に玉を入れることが出来れば10点を獲得し,入れることが出来なければ10点失った。なお,参加報酬は総合獲得点に依存すると教示した。玉を操作する際に,一方の色の玉は動きがマウスと常に一致していた (一致条件)。もう一方の色の玉は,試行毎に動きがマウスと一致,水平方向だけ不一致,垂直方向だけ不一致,水平・垂直方向ともに不一致のいずれかであった (出現確率は25 %ずつ)。また,いずれの玉の運動条件においても,マウスと玉の動きの間に3種類の遅延 (0,500,1000 ms) が存在した。各試行で,参加者はマウスと玉の動きの間の遅延がどのくらいであったかを21件法 (0−2000 ms) で評価した。行為主体感が強いと行為と行為結果の間の遅延が短く知覚され,この現象は行為主体感の潜在的指標として利用されている (e.g., Kawabe et al., 2013)。ゲームセッション後に,参加者はそれぞれの色の玉について物体所有感を11件法 (0: 全く感じない,10: 強く感じる) で答えた。分析では,ベイズファクター (BF) を算出した。BFが1よりも大きい場合は,予測通りの効果が得られたことを示し,1よりも小さい場合は両条件間に差がないことを意味する。
結果・考察 遅延の知覚的長さについてベイジアン分散分析を行った。最もデータへの説明力が高かったのは玉の動きと物理的な遅延の物理的な長さの両方の要因を含むモデルであり (BF = 8.23 × 1017),一致条件の方が遅延は短く知覚された。物体所有感の評定値 (図1a) についてベイジアンt検定を行った結果,不一致に比べて一致条件の方が高かった (BF = 505.90)。ゆえに,遅延による行為主体感の操作にともない,物体所有感も変調されることが明らかになった。
実験2
目的・方法 実験1から,行為主体感が物体所有感の形成に寄与していることが明らかになった。 しかし,どのようにして行為主体感は物体所有感を引き起こしているのだろうか。先行研究より,物体所有感には対象への自己関連性が関与していることが示唆されている (e.g., Belk, 1988)。ゆえに,人は「意思通りに制御できる対象」を「自己に関連している」とみなし,この自己関連性が物体所有感の形成に寄与しているのかもしれない。この仮説が妥当ならば,行為主体感は同等でも,他者の指示にしたがって動かしている場合は,自分の意志通りに動かしている場合に比べて自己関連性が低下するので物体所有感は弱くなるだろう。実験2では,玉の動きは2色とも実験1の一致条件と同様だが,一方は自分の思い通りに動かすことができ (自由条件),もう一方は指示通りに動かさなければならない (指示条件) ように条件を設定した。ゲームセッションにおいて,自由条件ではボール上に「F」が呈示され,指示条件では矢印が呈示された (矢印は常にゴール方向に向いていた)。指示条件では,常に矢印の方向にボールを動かさすように参加者 (11名) には教示した。それ以外は,実験1と同様であった。
結果・考察 遅延の知覚的長さについては,遅延条件のみを含むモデルが最も説明力が高く (BF = 9.52 × 1024),玉の動き条件間で遅延の知覚的長さに差はなかった。一方で,物体所有感の評定値 (図1b) については,指示条件に比べて自由条件の方が高かった (BF = 100.10)。ゆえに,同等の行為主体感が生起している場合でも,自己関連性の程度に依存して物体所有感の変調が起こることが示唆された。
総合考察
行為主体感の操作にともない物体所有感が変調することが明らかになった。また,同等の行為主体感の場合でも,行為が自己の意思通りに制御できる場合のほうが物体所有感は強くなった。これらの結果は,意図的な行為に基づいて物体所有感が生じることを示唆する。行為主体感には,自己の行為と行為結果の体制化が重要である (Kawabe et al., 2013)。ゆえに,行為主体感は自己と行為結果に関連する対象を結びつけ,この結びつきが対象への所有感をもたらしていると考えられる。一方で,行為主体感が弱い場合や他者の指示通りに制御する場合は,自己と対象との関連性が低下するために物体所有感が弱くなっているのではないかと思われる。

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