発表

3AM-055

英語のNatural Speechに対する脳波反応への習熟効果

[責任発表者] 松本 敦:1
[連名発表者] 片山 順一:2, [連名発表者] 尾島 司郎#:3, [連名発表者] 成瀬 康#:1, [連名発表者] 井原 綾#:1
1:情報通信研究機構, 2:関西学院大学, 3:横浜国立大学

目 的
 
脳波を用いた外国語習熟度の評価の研究はこれまでにいくつか先例がある。しかし,これまでの脳波研究は,離散的に呈示した刺激に対する脳波の反応を検討することで行われてきた(Kutas & Hillyard, 1980)。このような手法では会話やスピーチといったより自然な条件における脳波の反応を議論することは難しかった。近年の研究では音素など,会話などに含まれる様々な要素を特定し,それをモデル化し,データに回帰することで会話やスピーチなど自然な刺激に対する反応を定量化できることが示されてきている(Di Liberto et al,. 2015)。
本研究では英語の会話を聞いている際の脳波を計測し,その会話に含まれる様々な要素に対する反応を抽出し,その反応が英語習熟度によってどのように変化するのかを検討した。

方 法
 実験参加者は母語を日本語とする健常成人60名で,オンラインのリスニングテストのスコアから,英語高習熟群(30名)と低習熟群(30名)に分類した。実験参加者は絵の呈示後に流れる英語の会話音声を聞き,会話の最後の部分として適切な文章を三択で回答した(全10問)。脳波はFz, Cz, Pz, F7,F8から導出し,フィルタリング(1-15Hz)後,独立成分分析(ICA)で瞬きや眼球運動関連のノイズを除去した。会話音声に含まれる6つの要素(エンベロープ,音素オンセット,会話オンセット,文章オンセット,内容語オンセット,機能語オンセット)に対するモデルを構築し,リッジ回帰を用いた重回帰分析により各要素に対するTime response function (TRF)を算出した。

結 果
 得られたTRFから,全ての音素に対する反応の相関分析を行い,脳波の反応が各音素間でどれほど似ているのかを定量化した。さらに,子音に関して得られた相関マトリックスを多次元尺度構成法(MDS)を用いて2次元空間上にプロットした(図1)。
 図1からわかるように,高習熟群では破裂音,摩擦音など子音の種類に応じてクラスター化されているが,低習熟群ではクラスター化が十分ではない。このことは高習熟者は子音を聞き分け,その脳反応が異なっているが,低習熟者ではそうではないことを示している。
 また,単語に対する反応を見てみると,低習熟群と比較して高習熟群では単語発声後200ms近辺の反応が大きく,また
その潜時も50msほど短かった。このことは低群に対して高群
では単語に対する処理は素早く,そして深く行われていることを示している。
また,全部で30ある会話文に対する反応のうち,29の会話に対する反応から各音素や単語に対する反応を推測し,そ
図1. 子音音素に対する脳波反応の2次元配置

の推測されたパラメータから残り一つの会話に対する脳波活動を予測した。その結果,予測された脳波と実際に計測された脳波が低群(r=0.179)と比較して高群(r=0.348)では有意に相関が高かったことが示された。

考 察
本研究の結果から,英語に習熟した参加者は子音音素に対する反応が子音の種類ごとに異なっており,子音を系統的に的確に処理していることが明らかになった。これは,母語ではない言語の音素に対する反応の可塑性を示しており,学習することで音素の聞き取りに対する反応が変容しうることを示している。また,低習熟者で単語に対する初期の反応が遅く小さかったのは音素の聞き取りが十分でないため,単語の意味表象へのアクセスが遅れ,十分な処理が出来なかったためと考えることが出来る。
英語低習熟群で予測の脳波と実際の脳波の相関が低かったことは,低群と高群で脳波反応を説明するモデルが異なっている可能性を示しており,異なったモデルで検討する必要があると考えられる。
本研究の結果は,脳波を用いてリスニング力などを評価できる可能性を示しており,新しい外国語習熟度評価法の確立に寄与しうるものである[特願2018-01143]。
(本研究は公団法人日本英語検定協会からの助成を受けた。)

引用文献
Di Liberto et al. 2015 Low frequency cortical entrainment to speech reflects phonemic level processing. Current Biology, 25 2457-2465.
Kutas & Hillyard 1980 Reading senseless sentences: brain potentials reflect semantic incongruity. Science, 207 203-205.

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