発表

2EV-054

災害発生時の避難呼びかけに対する印象評価

[責任発表者] 神田 幸治:1
1:名古屋工業大学

目 的
 2011年3月に発生した東日本大震災以来,命令調や表現の違いによる避難呼びかけのあり方が提起された(井上, 2011, 2012)。その後各報道機関や自治体は強い口調による避難呼びかけを採用し(NHK放送文化研究所, 2013),2012年12月の三陸沖地震や2016年11月の福島沖地震では,切迫感のある口調で津波からの避難を促す呼びかけが,災害報道や行政放送で繰り返しアナウンスされた。このような災害時の緊急避難呼びかけについて,住民に対していかなる表現が適切であるかについて近年検討されつつある(e.g. 小林・赤木, 2018; 小笠原・大藤, 2017)が,十分議論されていない。呼びかけで併用される“逃げる”“避難する”はそれぞれ異なる意味を有し,表現の違いにより受ける印象が異なりうることが指摘されている(井上, 2012)。そこで本研究では“逃げる”と“避難”の言葉の差異や勧告・指示・命令などの表現の差といった,災害時の避難呼びかけの表現内容や口調が聴取者に与える印象を検討することを目的とする。

方 法
実験参加者 正常な聴力を有する大学生127名。
音声刺激 男女各1名による“逃げてください”“避難してください”(以上勧告表現)“逃げなさい”“避難しなさい”(以上指示表現)“逃げろ”“避難せよ”(以上命令表現)の6通りのアナウンスを録音し,計12種類の音声刺激を作成した。各表現の前には“津波です”の表現を加え状況を設定した。同様に“大雨です 注意してください”の練習用刺激も作成した。
評価項目 先行研究を参考にして,緊急音声や音声の感情に関する33対の形容詞または表現語対を選別し,SD法による7点尺度を作成した。さらに“テレビやラジオ,地下街や屋外などでこの音声を聴いたら,ただちに安全な場所に移動しますか”を行動尺度とし“ただちに移動する”から“ただちに移動しない”の7点尺度を設定した。これらの尺度は用紙に印刷された。
手続き 実験は大学の講義室で約30名~60名の参加者に対して一度に実施した。参加者には実験参加への同意を得たうえで評価用紙を配布し,倫理的配慮説明を含む教示を行った。実験参加者は教室前方に設置されたスピーカーから約70dB で提示される音声刺激を聴き,その印象を評価用紙上に筆記具で丸を付けて回答した。ひとつの音声刺激は約120秒反復提示され,参加者はその間に回答した。練習試行用刺激に対する評価を2回実施後に,12種類の音声刺激それぞれに対する評価が実施された。刺激提示順序は実験を実施した講義室ごとにランダム化された。実験所要時間は約50分であった。

結 果
 回答に欠損値の認められない101名のデータを用い,33種類の項目に関する探索的因子分析(最尤法,プロマックス回転,固有値1以上基準)を行った。1~2項目が1因子となった形容詞対を除外して再分析した結果,30項目について3因子が抽出され,第1因子を「緊迫性」,第2因子を「快適感」,第3因子を「力動性」とした(Table 1)。この各因子別に評価得点の合計を音声刺激12種類それぞれに対して求め,評価尺度平均値を算出した(Figure 1)。性(男声vs女声)×使用語(逃げvs避難)×表現(勧告vs指示vs命令)の実験参加者内計画3要因分散分析の結果,「緊迫性」因子では性×使用語×表現の交互作用が有意(p <.003)であり,単純交互作用ならびに単純・単純主効果の検討より,男声勧告表現に対する使用語間,男声避難条件に対する勧告・命令間および女声指示表現に対する使用語間以外の全条件に有意差が認められた。「快適感」因子では使用語×表現の交互作用(p <.001)と性の主効果(p <.001)が有意であり,単純主効果検定より,避難条件の指示・命令条件間以外に有意差が認められた。また「力動性」因子でも性×使用語×表現の交互作用が有意であり(p <.009),男声勧告表現に対する使用語間,男声指示・命令条件間,女声逃げ条件に対する指示・命令間以外で有意差が認められた。移動に関する行動尺度に関しても性×使用語×表現の交互作用が有意であり(p <.01),分析結果は女声指示条件で行動得点が有意に高くなることを示した。

考 察
 性や使用語により結果パターンが異なるが,「緊迫性」「力動性」および移動の評価得点で女性の声が高くなる結果は,女声の方が避難行動をより喚起しうることを示唆し,先行研究でもその傾向がみられる。特に「緊迫性」および行動得点が勧告調や命令調より指示調で評価が高かったことは,印象では避難時に対する命令調呼びかけの優位性が担保されるとはいえない。また「逃げ」と「避難」の言葉への印象は,指示調や命令調で異なる傾向を示すことが明らかとなった。

謝辞:本研究はJSPS科研費15K12471の助成を受けて実施された

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