発表

2PM-070

課題非関連な価値ある実物の単純存在効果

[責任発表者] 伊藤 資浩:1,2
[連名発表者] 河原 純一郎:1, [連名発表者] 山内 健司:1
1:北海道大学/日本学術振興会, 2:日本学術振興会

目 的
我々にとって重要な対象(金銭報酬に結びつけられた刺激, Mine & Saiki, 2015; 顔, Sato & Kawahara, 2015; 高カロリー食品, Cunningham & Egeth, 2018)は,課題非関連な事態でも注意を捕捉する。従来の研究において,それらの刺激は妨害刺激として標的と同時(もしくは,直前)に短時間呈示されるのに対し,Ito & Kawahara (2017)は課題遂行中に常に置かれている課題非関連な実物(e.g., 携帯端末)によって視覚的注意が損なわれること(単純存在効果)を明らかにした。具体的には,視覚探索課題中,携帯端末がPC画面の脇に置かれたときに,ノート(統制条件)が置かれたときに比べて反応時間が遅延した。しかし,その実物に対する注意バイアスが,携帯端末に特有の効果なのか,それと同等の価値がある対象(e.g., 現金)においても同様に生じるかは明らかではない。
本研究は視覚探索課題を用いて,実際に置かれている現金が視覚的注意のバイアスを生じさせるかを検証した。その注意バイアスについて,三つの仮説を検証した。第1の仮説が非空間的なフィルタリングコスト(Treisman et al., 1983)であり,現金がノイズとなり,それを抑制するコストが生じるかを検証した。第2に,課題非関連な現金に対し,注意捕捉(Theeuwes, 2010)が生じ,探索に干渉するかを検証した。第3の仮説が空間バイアス(Müller & Rabbitt, 1989)であり,課題非関連な現金に対して空間的に注意が引き付けられ,その注意されている空間側に注意の利得が生じるかを検証した。もしフィルタリングコストが生じる場合,現金が置かれている条件で置かれていない条件より,セットサイズに関わらず反応時間が一定に遅延すると予測される。またもしセットサイズが少ない条件に比べて多い条件でより多く現金に対して注意が捕捉される場合,セットサイズが多い条件でより反応時間の遅延が生じると考えられる。最後に,空間バイアスが生じる場合,現金が置かれている側に呈示された標的の反応時間は,反対側の標的に比べて早くなると予測される。
方 法
被験者 90名の学生が参加した。 手続き 被験者は2つの群に分けられ,実験群(N = 60)ではPC画面の左脇に現金(7万円; Figure 1),統制群(N = 30)ではノートが置かれた。被験者は画面上の妨害刺激(L)の中から標的(T)を探し,その回転方向(左/右)をできるだけ素早く判断した。標的は画面中央から左右のどちらかに均等な割合で呈示された。要因計画 実物(現金/ノート; 被験者間要因) × セットサイズ(8/24; 被験者内要因) × 実物と標的間の空間的位置(同側/反対側; 被験者内要因)。
結 果・考 察
Figure 2aは,実物のタイプ(現金/ノート)を関数としたセットサイズ(8/24)ごとの平均反応時間を示す。Figure 2bは,セットサイズ及び実物のタイプごとに,実物と標的間の空間的位置に基づく一致性効果(反対側条件の反応時間 – 同側条件の反応時間)を示す。要因計画に基づく三要因分散分析を行った結果,セットサイズの主効果が認められ(F (1, 84) = 627.79, p < .001, ηp2 = .88),セットサイズの増加に伴い反応時間は遅延した。重要なことに,実物のタイプの主効果(F (1, 84) = 15.07, p < .001, ηp2 = .15)及び実物のタイプ × セットサイズの交互作用(F (1, 84) = 8.88, p = .004, ηp2 = .10)が認められ,両セットサイズにおいてノート条件より現金条件で反応時間は遅延した(Fs (1, 84) > 12.67, ps < .001, ηp2 > .13)。またその遅延はセットサイズ24のときにセットサイズ8に比べて長かった(t (55) = 4.71, p < .001, d = .76)。一方,実物と標的間の空間的位置の主効果(F (1, 84) = 2.07, p = .15, ηp2 = .02)及びその効果と実物のタイプが関与する交互作用(Fs < 0.08, ps > .78)は認められなかった。これらの結果は,注意捕捉の予測と一致しており,フィルタリングコスト及び空間バイアスの予測とは一致しなかった。
結 論
本研究は,刺激の一時的な呈示による注意捕捉ではなく,常に置かれた価値のある対象(e.g., 現金)が視覚的注意のバイアスを生じさせるかどうかを検証した。その結果,セットサイズの増加に伴い,統制条件に比べて現金条件で反応時間の遅延が増加した。この結果は,単に置いてある課題非関連な現金に対して注意捕捉が生じることを反映している。すなわち,セットサイズが少ない条件に比べて多い条件でより多く現金に対して注意が捕捉されることによって,非効率的な探索になることが考えられる。一方,現物とセットサイズの交互作用が認められたことより,現金の単純存在効果が非空間的なフィルタリングコストを反映しないことを明らかにした。そして,空間バイアスは現金によって生じず,同側条件による利得は認められなかった。すなわち,本研究において,現金の単純存在効果は注意の幅のある空間的なバイアスを引き起こさず,注意捕捉のみを引き起こすことを明らかにした。

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