発表

2PM-058

報酬と連合された「位置」が眼球運動を駆動する

[責任発表者] 峯 知里:1,2
[連名発表者] Michel Failing#:3, [連名発表者] Jan Theeuwes#:3
1:京都大学/日本学術振興会, 2:日本学術振興会, 3:アムステルダム自由大学

目 的
我々が限られた処理容量の中で効率よく情報を処理するためには,どのように情報を選択するのかが重要となる。近年,報酬と連合された視覚情報は優先的に処理され,注意や眼球運動を駆動することが示唆されてきた(cf., Failing & Theeuwes, 2018)。報酬による注意の駆動を検証した多くの先行研究では,報酬が特徴情報(例:色)と連合されていた。色や形のような特徴は,対象の認識に不可欠な情報であるが,我々が外界の対象を捉える際は,特徴情報だけでなく,その対象が「どこ」に存在しているのかに関する位置の情報も重要である。先行研究では,特徴の情報と位置の情報が脳内の異なった経路で処理されていることが示されており(e.g., Van Essen & Gallant, 1994),これらの処理は報酬の影響の受け方が異なる可能性がある。しかし,先行研究では,位置の処理に関する報酬の影響について十分な検討がなされておらず,未解明な点が多い。そこで,本研究では,報酬を特定の位置と連合し,この位置が眼球運動を駆動するか否かを検証する。

方 法
実験参加者 大学生・大学院生36名が実験に参加した。
刺激・手続き Failingら(2015)の実験パラダイムを参考とし,眼球運動を測定した。各試行では,参加者が画面中央から視角3°以内を注視した後,注視点(視角0.5°)が出現した(300 ms)。その後,1 - 150 msのブランクをはさみ,半径視角7°の円環上に,六つの図形(円/正方形,視角2.3°)が等距離に呈示された(探索画面)。六つの図形のうち一つ(例:円,標的)は,他の図形(例:正方形,妨害刺激)と異なっており,上または下の位置に出現した。参加者は,標的位置(上または下)に対して,できるだけ速く正確にサッカードを行った。試行の67%では,標的を含む上下以外の四つの位置に呈示された妨害刺激の一つに赤色が付加された(色妨害刺激)。残り33%の試行は,すべての図形がグレーであった。探索画面の制限時間は,本試行の前に実施された練習試行(32試行)の反応時間を用いて,参加者ごとに第三四分位数を算出し決定した。標的の関心領域は標的の中央から視角3°,妨害刺激の関心領域は4°であった。制限時間内に標的を注視した場合,250 ms間のブランクが呈示された後,報酬フィードバックが出現した(1250 ms)。報酬の条件は,高報酬(+100),低報酬(+10),報酬なし(+0)の三つであった。上下を除く四つの妨害刺激位置のうち,一つが高報酬,一つが低報酬,残り二つが報酬なしと連合された。高報酬と低報酬位置は,異なる半球に設定した(例:右上が高報酬,左下が低報酬,右下と左上は報酬なし)。報酬条件と位置の組み合わせ8パターンは,参加者間でカウンターバランスが取られた。本試行は,計576試行(96試行6ブロック)を実施した。
データ分析 4名のデータ(3名は装置の不備,1名は正答率が43.6%)は分析から除外した。タイムアウトの試行(>800 ms),第一サッカードの潜時が80 ms以下,600 ms以上,または探索開始時に中心から視角3°以内を注視していなかった試行は分析から除外した。残り87.9%を分析対象とした。

結 果
本研究の主要な結果を以下に示す。妨害刺激条件(あり/なし)と報酬条件(高報酬/低報酬/報酬なし)を要因とし,参加者内2要因分散分析を行った。
反応時間 妨害刺激(F[1, 31] = 42.04, p < .001, ηp2 = .576)と報酬の主効果(F[2, 62] = 4.88, p = .011, ηp2 = .136),交互作用に有意差がみられた(F[2, 62] = 3.15, p = .050, ηp2 = .092)。妨害刺激あり条件について,報酬条件間の多重比較を行った結果,すべての条件間に有意な差が確認された(高報酬と報酬なし,t(31) = 4.05, p = .001;高報酬と低報酬,t(31) = 2.26, p = .031;低報酬と報酬なし,t(31) = 2.45, p = .020)。つまり,サッカードが標的の関心領域に到達するまでの時間は,色妨害刺激が高報酬,低報酬,報酬なしの位置に出現した順に遅延した。
方向 第一サッカードが妨害刺激の中心から30度以内に終了した試行の割合を算出した。分散分析の結果,妨害刺激(F[1, 31] = 12.83, p = .001, ηp2 = .293)と報酬の主効果(F[2, 62] = 7.48, p = .001, ηp2 = .194),交互作用に有意差が認められた(F[2, 62] = 4.54, p = .014, ηp2 = .013)。多重比較の結果,妨害刺激あり条件について,高報酬と報酬なし(t(31) = 2.74, p = .010),低報酬と報酬なし(t(31) = 3.13, p = .004)の間には有意な差がみられたが,高報酬と低報酬には差がみられなかった(t(31) = 0.28, p = .781)。従って,報酬なしと連合された位置に比べ,報酬と連合された位置に対して頻繁にサッカードが行われた。

考 察
 本研究では,報酬と連合された位置が眼球運動を駆動するか否かを検証した。その結果,高報酬と連合された位置に色妨害刺激が呈示された場合に,標的を注視するまでの時間が最も遅延した。また,第一サッカードが色妨害刺激の方向に行われた割合は,報酬なし条件に比べて,報酬条件(高報酬・低報)の方が高かった。このことは,報酬と連合された位置に眼球運動が駆動されたことを示唆している。

引 用 文 献
Failing, M. & Theeuwes, J. (2018). Selection history: How reward modulates selectivity of visual attention. Psychonomic Bulletin & Review, 25, 514-553.
Failing, M., Nissens, T., Pearson, D., Le Pelley, M., & Theeuwes, J. (2015). Oculomotor capture by stimuli that signal the availability of reward. Journal of Neurophysiology, 114, 2316-2327.
Van Essen, D.C., & Gallant, J. L. (1994). Neural mechanisms of form and motion processing in the primate visual system. Neuron, 13(1), 1-10

詳細検索