発表

1EV-050

アレキシサイミア傾向者における両眼視野闘争下の表情知覚

[責任発表者] 高橋 玲央:1
[連名発表者] 行場 次朗:1
1:東北大学

目 的
 アレキシサイミアは自己の感情の同定,表現の困難に特徴づけられるパーソナリティ特性であり(Taylor, Bagby, & Parker, 1991),他者の表情認知(Grynberg et al., 2012)や社会性(Spitzer, Siebel-Jürges, Barnow, Grabe, & Freyberger, 2005; Sifneos, 1975)の困難も示す。感情の意識的経験に関与する脳部位の機能不全がアレキシサイミアの神経基盤の1つとして想定されていることに基づけば(Lane, Reiman, Axelrod, Yun, Holmes, & Schwartz, 1998),アレキシサイミアは感情の意識的経験の鈍麻とも考えられる。これらの先行研究から,アレキシサイミア傾向者にとって,視覚的な(他者の)表情刺激は意識にのぼりにくいと予測されるが,その点に関する検討はまだ十分でない。本研究の目的は,視覚刺激の意識的知覚時間を定量化できる両眼視野闘争課題を行ったとき,アレキシサイミア傾向高群と低群で情動的表情の知覚時間に差がみられるかどうかを検討することである。

方 法
 実験参加者 大学生252名に対し,トロントアレキシサイミア尺度(Toronto Alexithymia Scale: TAS-20)(Bagby, Parker, & Taylor, 1994; 小牧他,2003)によるスクリーニングを行った。質問紙への回答に欠損値があること,視覚異常に関する医学的診断(e.g. 斜視,色覚異常)の経験があることの2点を除外基準とし,少なくとも一方の除外基準を満たす32名を除いた220名(男性97名,平均年齢19.20歳)の中から実験参加者を募集した。最終的に,アレキシサイミア傾向高群18人(男性9名,TAS-20平均66.61点)と低群18名(男性9名,TAS-20平均41.17点)が分析対象となった。
 視覚刺激 観察距離40 cmに設置したLCDディスプレイ(リフレッシュレート:144 Hz,ASUS社製)に表情刺激とモザイク刺激をそれぞれ視角4×4度で提示した。表情刺激には,Japanese female facial expression (JAFFE) database(Lyons, Akamatsu, Kamachi, Gyoba, & Budynek, 1998)から,4人の役者の5表情(中性,恐怖,悲しみ,驚き,喜び)を使用した。
 実験手続き 参加者の両眼の対応する位置にモザイク刺激と表情刺激を提示し両眼視野闘争を生じさせた。参加者は知覚している像が「表情刺激の排他的優位」「モザイク刺激の排他的優位」「どちらともいえない」のうちいずれに該当するかを,3種類のキーを押して回答した。刺激提示時間は1試行につき30秒間であり,全40試行(表情刺激の役者4人×表情5種類×刺激の左右交替2通り)は無作為順に実施された。
 課題成績の指標 両眼視野闘争課題中の表情知覚の程度を表す指標(Face Percept Index: FPI)として,表情刺激優位とモザイク刺激優位の平均累積知覚時間の差を,両者の和で除した値 (tface-tmosaic) / (tface+tmosaic) を算出した。FPIの値が大きいほど,モザイク刺激に比べて表情刺激の方がより長い時間排他的優位に知覚されていることを表す。
 分析方法 情動価の観点から表情刺激を中性,ネガティブ情動(恐怖,悲しみ),非ネガティブ情動(驚き,喜び)に分類した。FPIを従属変数とし,表情刺激の情動価(参加者内要因3水準:中性,ネガティブ情動,非ネガティブ情動)とアレキシサイミア傾向(参加者間要因2水準:低群,高群)を独立変数とする2要因混合計画の分散分析を行った。

結 果
 分散分析の結果,アレキシサイミア傾向と表情刺激の情動価との交互作用に有意傾向がみられた(F2,68 = 2.72, p = .073, ηp2 = .074)。試みに単純主効果検定を行ったところ,アレキシサイミア傾向低群にのみ情動価の有意な単純主効果が認められた(F2,68 = 4.03, p = .022)。Bonferroni法による多重比較の結果,低群におけるネガティブ情動と非ネガティブ情動のFPIの間に有意水準5%で有意差が認められた(Figure 1)。
 Figure 1. アレキシサイミア傾向高群と低群におけるFPIの比較.エラーバーは標準誤差.* p < .05.

考 察
 本研究の目的はアレキシサイミア傾向高群と低群で情動的表情の知覚時間に差がみられるかどうかを検討することであった。FPIに対する分散分析の結果,アレキシサイミア傾向と表情刺激の情動価との交互作用に有意傾向がみられ,低群において非ネガティブ表情はネガティブ表情よりも長い時間排他的優位に知覚されることが示された。一方で,高群にこのような差は認められなかった。この結果は,アレキシサイミア傾向高群の参加者は情動価に応じた表情刺激の弁別的知覚が困難であることを示唆する。アレキシサイミア傾向高群におけるこの表情知覚特性は社会性の困難(Spitzer et al., 2005; Sifneos, 1975)に寄与している可能性がある。
謝 辞
この研究の一部は,科学研究費補助金基盤研究(C)(No. 16K00378)の助成を受けている。

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