発表

1PM-070

乳児における接近する人物の認知

[責任発表者] 小林 恵:1
[連名発表者] 金沢 創:2, [連名発表者] 山口 真美:3, [連名発表者] Alice J. O'Toole#:4
1:愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所, 2:日本女子大学, 3:中央大学, 4:The University of Texas at Dallas

目 的
 我々は日常、さまざまな場面において環境の変化(観察距離・照明・向き・動きなど)を超えて、人物の認知をすることができる。例えば、さまざまなシーンの動画(発話や表情変化、頭部の回転、遠方から接近)で人物を学習後、学習時とは異なる「人物が遠方から接近する動画」で再認をテストすると、顔情報と身体情報の両方を利用し正確な人物認知を達成していることが示されており(Hahn et al., 2016)、これは成人が全く異なるシーンにも顔認知を般化する能力を有していることを示唆する。
これまでの乳児を対象とした発達研究では、生後間もない乳児でも、ある程度の顔認知の般化を示すことが知られている。例えば、学習時と異なる顔の向きで再認テストを行うと、生後7ヶ月頃から学習した人物と新奇人物の顔を弁別できる(e.g., Fagan, 1976)。しかしこれまで、全く異なるシーンでも乳児が顔を再認できるのかについては未検討であった。
そこで本研究は、生後5−7ヶ月児に発話動画で顔を学習させた後、遠方から人物が接近する動画で顔の再認を検討した。もし乳児が学習した顔情報を異なるシーンに般化し顔を認識できるのであれば、接近動画で新奇の人物を選好すると予測される。乳児の日常生活においては、対面で話しかけられることが多く、一方で遠くから近づく他者を認識しているかのような乳児の振舞いを観察することができる。こうした現象が真に起きているかを実験的に検討する。

方 法
被験者: 各実験について、生後5, 6, 7ヶ月児16名ずつが実験に参加した。
刺激: 各実験の刺激は、人物のビデオデータベース(O’Toole et al., 2005)から、2名の女性の発話ビデオおよび、遠方から歩行で接近するフルカラーのビデオを編集し作成した。発話動画は5秒間であった。接近動画は、顔が視認しやすい最も接近した動画の最後3秒間を切り出して用いた。
実験1ではこれらの動画刺激を正立で提示し、実験2では倒立で提示した。実験3ではグレースケール化した動画刺激を正立で提示し、実験4では別日に撮影された2種類の発話動画を用いた。
手続き: 親近化法を用いた。21インチCRTモニタ上に、親近化試行(15秒×4試行)では発話動画を提示し、その後の再認テスト試行(10秒×2試行)では遠方から歩行で接近する動画(実験1-3)または発話動画(実験4)で親近化試行で学習した人物と新奇人物を対提示し、各刺激に対する注視時間を計測した。2名の女性のうちどちらに親近化するかは、乳児間でカウンターバランスが取られた。

結 果
 新奇人物をターゲットとして、テスト試行の総注視時間に占めるターゲットへの注視時間の割合(選好値)を月齢ごとに算出した。各月齢における新奇人物の選好値に対しチャンスレベル(50%)とのt検定を行った。
・実験1(カラー・正立) 生後7ヶ月児のみ、有意な新奇選好が認められた(t(15) = 3.20, p < .01)。
・実験2(カラー・倒立) いずれの月齢でも、有意な新奇選好は示されなかった(all n.s.)。しかし親近化した人物別に選好の偏りを検討すると、親近化した人物に依らず色によって乳児の選好が偏る傾向が示された。
・実験3(グレースケール・正立) 実験1と同様に、生後7ヶ月児のみ有意な新奇選好が認められた(t(15) = 3.11, p < .01)。
・実験4(発話動画テスト)生後6・7ヶ月児が、有意な新奇選好を示した(生後6ヶ月:t(15) = 4.31, p < .001、生後7ヶ月:t(15) = 4.05, p < .01)。



考 察
本研究の結果、生後7ヶ月ごろから発話動画で顔を学習後、接近する人物の顔を再認できることが示された。さらに、これは刺激の低次特徴ではなく、顔に基づくものであることが確かめられた。一連の実験の結果から、顔の認知を般化し、新奇のシーンでも識別する能力は生後7ヶ月頃に発達すると示唆される。一方、生後6ヶ月以下の乳児では顔を識別する基礎的な能力は有しているものの(Otsuka et al., 2014 for review)般化能力は未熟であり、生後7ヶ月までに徐々に発達すると考えられる。

引用文献(抜粋)
O’Toole, A. J., Harms, J., Snow, S. L., Hurst, D. R., Pappas, M. R. & Abdi, H. (2005). A video database of moving faces and people. IEEE Trans Pattern Anal Mach Intell, 27(5), 812-816.
Hahn, C. A., O’Toole, A. J., & Phillips, P. (2015). Dissecting the time course of person recognition in natural viewing environments. British Journal of Psychology, 107, 117-134.

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