発表

1EV-043

バーチャルリアリティ空間における月の錯視

[責任発表者] 吉田 弘司:1
1:比治山大学

目的
 地平線近くの月は,頭上にあるときよりも大きく見えるが(月の錯視,Kaufman & Rock, 1962),それを写真に撮っても大きくは見えない。これに対して,バーチャルリアリティ(以下VR)は,平面的な写真とは異なり,実際の3次元空間と同じような広がりを人に体験させることができる技術である。そこで本研究では,VRで作った空間においては月の錯視が生じるのではないかと考え,その実験的検討を行った。
方法
 実験参加者 大学生14名(男性2名,女性12名)を対象に実験を行った。
 装置 Windows PC(G-Tune LG i310)とVRゴーグル(Oculus Rift CV1)を用いてVR空間を提示した。同じ空間を2次元的に提示するには,23インチ液晶ディスプレイ(iiyama ProLite T2336MSC)を用いた。また,反応用にゲームコントローラ(Microsoft Xbox One用)を使用した。
 刺激 Unity v5.6.1を用いて街角のブロックセット(Laika BOSS Town Road)を5セット並べ,2.4 kmの直線道路と街並みを作成し,10 km先に直径175 mの仮想の月を提示することで刺激とした(Figure 1)。なお,VRゴーグルの解像度は十分でなく,1度あたりの画素数は対角14.7 pixel相当にすぎない(通常,直径0.52度である月を提示すれば,その映像は垂直水平解像度において直径7.6 pixelの点の集合にすぎない)。そこで,実験では,月の大きさを実際の2倍(1度)で提示することによって月を構成する点の数を増やし,実験における測定精度を高めることとした。
 手続き 心理物理学的測定法(調整法)を用いて,月の錯視量を測定した。実験では,地平線上3.8度とその70度上方に2つの月を同時に提示し,参加者はコントローラのスティック操作によって頭上の月を地平線近くの月と同じ大きさに調整するよう教示された。測定は,明らかに小さい月を大きくしていく上昇系列を5試行,明らかに大きい月を小さくしていく下降系列を5試行,計10試行を行った。2つの月は同時に視野に入ることはなかったので,ディスプレイ画面ではゲームコントローラによって仰角を変化させるようにした。

Figure 1. 実験で作成したVR空間と地平の月.
結果
 実験において,参加者が地平の月と同じ大きさに調整した頭上の月の大きさを,地平の月の大きさで割った比率を錯視量とした。この比率が1よりも大きければ,参加者は地平の月が頭上の月よりも大きく見えていたことを意味する。Figure 2に結果を示すが,月の錯視を示す比率は,2次元のディスプレイ画面で1.29,VRゴーグルを装着した状態で1.42であり,どちらの条件でも参加者全員において1以上の比率を示していたことから,地平の月は頭上の月よりも大きく知覚されていたことがわかった。また,2つの条件間で錯視量に違いが認められるかについてt検定を行ったところ,VRゴーグル下での錯視量は,ディスプレイ画面で測定された錯視量よりも有意に大きかった(t(13) = 2.37, p < .05)。

Figure 2. 各条件下での平均錯視量(誤差範囲はSD).

考察
 本研究では,VR環境において月の錯視が生じるかについて検討した。実験の結果,参加者は地平の月よりも頭上の月を大きく調整した。つまり地平の月は実際よりも大きく知覚されており,月の錯視が生じていた。この錯視は,2次元のディスプレイ画面でも生じたが,VR環境においてはさらに大きな錯視が生じた。測定条件や測定方法は異なるものの,Kaufman & Rock(1962)が測定した月の錯視の比率は1.46-1.48であった。本研究でも,VR環境下では1.42の比率が得られたことから,VR環境であれば,実環境と同程度の月の錯視が生じるのだと考えられる。
 地平の月の見かけの大きさは写真に写らないが,同様の現象は土砂災害の現場写真などでも生じ,その規模の大きさが2次元の写真からは十分に伝わらない。本研究の結果は,災害予防教育において,災害規模の大きさを体感するメディアとしてVRが使えることを示唆するのではないだろうか。
引用文献
Kaufman, L., & Rock, I. (1962). The moon illusion, I. Science, 136, 953-961.
1本研究は,筆者のゼミの岡﨑愛美さん,古山ちあきさんと共同で行いました。ここに記して感謝します。

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