発表

2PM-051

社会的場面における共感表出の変化――感情価による差を表情筋活動で検討する――

[責任発表者] 齋藤 菜月:1,2
[連名発表者] 大平 英樹:1
1:名古屋大学/日本学術振興会, 2:日本学術振興会

目 的
共感とは,自分が推測した他者の感情と一致した,自分に生じる感情反応である。共感は他者の不快感情だけでなく快感情にも生起すると言われている。
快と不快の共感では異なる機能を持つ可能性が間接的に示されており,進化論的知見によると,不快に対する共感は嫌悪回避など,生存に直結する機能が,快に対する共感は社会的な動機に関連する機能があるだろうといわれてきた(e.g. deWaal, 2008)。Molenberghs et al. (2014) は,他者へ嫌悪刺激が与えられていると知らされた時には,不快感情に関連する脳活動が観察対象者の属する集団に関わらず同程度に高まるが,他者へ報酬が与えられていると知らされた時には,報酬関連脳領域の活動が内集団成員に対して特異的に高まることを示した。この結果は,快への共感には内集団への協力や全体の報酬増加のための働きかけを促すような社会的機能があることを示唆している。そのため,快の共感については,他者に共感が生起したことを伝えることが,共感の社会的な機能を説明するのに重要であるだろう。しかし,先行研究では共感の表出については言及されていない。
本研究では,共感の感情価ごとの表出が社会的要因の有無によって影響されるかを検討するため,他者の金銭獲得・損失の結果を観察している際,その様子を相手に見られているか否かで共感的反応表出に差が生じるのかを検討した。もし,相手に見られている条件で見られていない条件よりも快の共感反応が特異的に大きく表出されるのであれば,快の共感と社会的機能との関連が示唆される。一方で,不快に対する共感表出にはこのような条件差はみられないだろう。本実験では共感表出の指標として表情筋の活動を用いた。

方 法
実験参加者 大学生20名(男性10名)が実験に参加した。
手続き 二人の同性の参加者が同時に実験に参加した。二人は報酬を受け取る報酬課題と,ペアが受け取る金額を観察する観察課題を交互に行った。報酬課題では,注視点の後呈示される枠の色に応じて金銭を得たり失ったりした。枠の色の明度によって金額の絶対値が増減した。枠呈示後,確率的に現在の感情状態を5件法で尋ねた。観察課題では,画面にペアが受け取っている金額が呈示され,金額呈示後,確率的にペアの現在の感情状態の予測を5件法で尋ねた。
参加者は,ペアが受け取る金額観察時の顔が相手に映し出される被撮影条件と,観察時の顔を見られることがない単独条件の両方に参加した。被撮影条件では報酬課題で呈示される枠内に観察者のその時の様子が映し出され,単独条件では,観察者の顔が映されることはなかった。
課題中,不快感情の指標である皺眉筋の活動,および快感情の指標である大頬骨筋の活動が測定された。また、実験の前後にペアについての印象評定を行った。

結 果
 試行開始前1秒間を基準とした,他者の結果観察中6 秒間の表情筋積算値について標準化得点を求めた。
 他者の結果観察時の皺眉筋と大頬骨筋の活動について,条件(被撮影・単独)×結果(獲得・損失)の2要因分散分析をそれぞれ行った。その結果,皺眉筋はいずれの主効果も交互作用も見られなかった。一方,大頬骨筋の活動には条件と結果の交互作用傾向が見られた(F(1, 19) = 3.48, p < .06)。多重比較の結果,大頬骨筋は被撮影条件でのみ,損失の結果を観察した時よりも獲得の結果を観察した場合に活動量が大きくなっていた(Bonferroni p = .05)

また,課題前後での印象得点の変化量と表情筋活動との相関分析を行った。その結果,被撮影条件で他者の損失に対する皺眉筋活動が高いほど,相手からの印象がポジティブに変化していた(r = 0.69, p < .01)。

考 察
 観察場面を相手に見られている条件では,他者の損失に対して生じる大頬骨筋の活動が抑制されていた。一方で皺眉筋では条件差がみられなかった。この結果は,他者に見られているという情報の有無によって,共感の感情価による差異が共感表出においてもみられることを示している。
 また,他者からの印象形成と相関がみられたのは損失に対する皺眉筋の活動のみであった。快と不快の共感表出それぞれが社会的機能のどの側面と関連があるのかを検討する必要がある。

引用文献
De Waal, F. B. (2008). Putting the altruism back into altruism: the evolution of empathy. Annu Rev Psychol, 59, 279-300.
Molenberghs, P., Bosworth, R., Nott, Z., Louis, W. R., Smith, J. R., Amiot, C. E., ... & Decety, J. (2014). The influence of group membership and individual differences in psychopathy and perspective taking on neural responses when punishing and rewarding others. Hum Brain Mapp, 35(10), 4989-4999.

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