発表

3PM-040

大学生活場面におけるスティグマに自閉症の診断提示が及ぼす影響に関する検討

[責任発表者] 谷口 あや:1
[連名発表者] 山根 隆宏:1
1:神戸大学

目 的 
2013年にDiagnostic and Statistical Manual of Mental Disordersの第五版となるDSM-5が公開された。大きな変更点として,DSM-IVではアスペルガー障害(AS)などのサブカテゴリーを含み広汎性発達障害と呼ばれていたものが,「自閉症スペクトラム(ASD)」に統合されたことが挙げられる。診断名はスティグマに影響を及ぼす要因の1つであり,アスペルガー障害の診断名が自閉症へと変化することでAS者がスティグマを受けやすくなることが懸念されてきた(Robert & Jennifer, 2011)。
これまで,ASD者に対するスティグマには診断名自体は大きく影響しないが,診断の有無が影響すると考えられてきた(Ohan,Ellsfson & Corrigan, 2015;Bronson & Mills, 2016)。しかし,これらの知見は国外に限ったものであり,日本国内においては具体的な診断名がASD者へのスティグマに及ぼす影響を検討した研究は十分ではない,ASDに対する知識や認識には国による文化差が見られる(Obeid et al,2015他)ことや,アメリカの大学生に比べて日本人の大学生はASD者に高いスティグマを示す(Someki, Torii, Brooks, Koeda, & Gillespie-Lynch, 2018)ことから,診断名がスティグマに及ぼす影響に関して国外と異なる知見が得られる可能性がある。
ところで,Ohan et al.(2015)の研究では,診断名がスティグマに及ぼす影響に関して知識との関連が指摘されている知識はスティグマ研究における重要な要因の一つである。ASDに対する知識を持つことによって,診断名がスティグマに及ぼす影響には差異が見られると考えられる。
以上より,本研究ではASD,ASの診断名の提示がスティグマにどのような影響を及ぼすのか,またASDへの知識との関連が見られるのかを検討することを目的とする。
方 法
1.調査協力者 
近畿地方の4年生大学に在学する159名に調査を実施。(男性98名,女性56名,その他2名,回答なし3名;平均年齢19.85歳(SD =1.88))
2.調査日時  
2018年4月中旬~5月上旬に実施した。
3.調査手続き 
ASDの特性(関心の制限,社会的相互作用の困難)を示す登場人物を描写した2つのビネットを提示。ビネットは,Matthews,Ly & Goldberg(2015)を参考に邦訳し,大学でのグループ課題場面,クラブ場面を用いた。それぞれのビネット内の登場人物に対して1)ASDがある(以下,ASD条件),2)ASがある(以下,AS条件),3)障害の診断名なし(診断なし条件)の3条件を作成し,ランダムに配布した。ビネット内の登場人物に対するスティグマを評定させた。
4.質問紙の構成
スティグマの測定 Social distance scale(Bogardus,1933)をもとにしたSomeki et al. (2018)による日本語訳。得点が高いほどスティグマが高いとされる。
知識 Autism Awareness Survey (Stone, 1987)をもとにしたSomeki et al. (2015)による日本語訳。5段階評定。
社会的望ましさ 日本版社会的望ましさの簡易版(北村・鈴木,1986)を用いた。「はい」か「いいえ」の2件法。
5.統計解析 HAD version 16(清水,2016)を用いた。
結 果
 Social distance scale(以下,SDS)の内的整合性を確認するために,グループ課題場面及びクラブ活動場面におけるCronbachのα係数を算出した。その結果,α=.90であり,信頼性は十分であると判断した。
 SDS得点に社会的望ましさによって影響を受けているかどうかを確認するために,両変数間の相関係数を算出した。全体として社会的望ましさの影響は見られず,一部に関連が見られたものの弱い関連であったため,社会的望ましさによる影響は少ないものと判断した。
 診断名と知識がスティグマに及ぼす影響を検討するために,各場面におけるSDS得点の合計を従属変数とした階層的重回帰分析をおこなった。Step1にASD診断(ASD:1,AS:0,診断なし:0),AS診断(ASD1:0,AS:1,診断なし:0),ASDに対する知識量の合計得点を投入した。Step2では1次の交互作用項(ASD診断×ASD知識,AS診断×ASD知識を投入した。その結果,グループ課題場面においてAS診断と知識の交互作用が有意傾向であった。クラブ場面においてはAS診断が正の関連(β=1.53,p<.05),知識が負の関連(β=-.23,p<.01)。を示した。また,AS診断と知識の交互作用が有意であり,Step2のモデルの説明率の上昇が有意傾向でみられた(ΔR²=.036, p<.05)。そこで,単純傾斜の検討を行ったところ,クラブ場面においてASの診断名がある場合において,ASDの知識量は有意な負の効果を示した(β=-.40,p<.05)。
考 察
診断名の提示によるASD者へのスティグマを検討した結果, ASDに対する知識が低い場合,ASの診断名があると,スティグマが高くなることが明らかになった。一方でASD診断ではこの傾向はみられなかった。Ohan et al.(2015)では,ASとASDの間にスティグマの違いは見られておらず,Brosnan et al.(2016)においてもASとASDへの診断表記に対して,学生のネガティブ,ポジティブな反応には有意差が見られなかった。本研究において,ASDとASの間でスティグマの差が見られたことはアメリカやイギリスとは異なり,日本においてはASDとASに対する捉え方に何らかの違いが存在していることを示唆した。また,スティグマの軽減にはASDの知識が影響を及ぼすことはこれまでの研究からも明らかにされており(Gillespie-Lynch,2015),本研究の知見はこれに一致するものであり,ASの診断名の効果は知識の高低などと関連して限定的に表れるものと考えられる。
※本研究はJSPS科研費 18K13347の助成を受けて実施した。

詳細検索