発表

2EV-039

ヤングケアラーにおける親子間の役割逆転の機能の検討

[責任発表者] 奥山 滋樹:1
1:東北大学

目 的
 未成年を含んだ、若年の家族介護者のことをヤングケアラー(Young carers)と呼ぶ。ヤングケアラーは、介護行為のみならず、通常は成人が担うであろうと思われる様々な家庭内での役割を担うことが多いとされる。ヤングケアラーを対象とした調査・支援が盛んなイギリスでは、そのケア役割の重責によって、日常生活上の負担の増加や精神的健康の悪化など、心身ともに様々な影響を被ることが明らかとされており、患者である家族のみならず、家庭内でケアを担っているヤングケアラーも公的支援の対象とされている。本邦では徐々にヤングケアラーが直面する課題の整理もなされてきているものの、当事者を対象とした量的な研究は少なく、負担や精神的健康上の諸問題と関係する要因の探索は殆どなされていない。
 通常の家庭状況では、未成年者は家庭内で親や年長者からケアを受ける側であることが殆どである。これに対し、ヤングケアラーでは、子が親や年長者にケアを提供したり、あるいは、親や年長者が担うケア役割の代行を行ったりするなど、子と親との間で行為上の役割逆転が生じやすくなっている。
 このような行為上の役割逆転現象の他に、親から子への情緒的なサポート提供や屈折的な甘えに特徴づけられる、情緒的な側面における現象としての、「役割逆転」という概念がある。「役割逆転」とは、「親が、子どもに対して本来与えるべき愛情、喜び、賞賛、敬意などの情緒的サポートを与えることを怠る一方で、子どもに対してはこれらのサポートを親自身に与えるよう要求し、実際に得ようとする中で、親の愛情欲求が通らないときには子どもに対して『すねる』『ふてくされる』などの屈折的甘えを呈するのと同時に、親が子どもに非現実的なほどの過剰な期待を課している、と子どもの側が感じること」と定義されている(山田・平石・渡邊, 2015)。山田ら(2015)では「役割逆転」の特徴をもつ親子関係が、「過剰適応」「ふれ合い恐怖」「信頼感の低さ」を含む概念である、子どもの「疑似成熟」を促進させる傾向にあることが指摘されており、「役割逆転」が子の精神的健康を阻害するものであることが示唆されている。
 上記したように、ヤングケアラーにおいては行為の上での役割逆転が頻発しやすいことが考えられる。一方で、情緒的な側面での「役割逆転」は、その家庭ごとに異なることが予想される。例えば、未成年の子が親を介護している状況であっても、親から子に対する励ましや庇護がなされている場合には、情緒面での「役割逆転」は生じていないことが推測される。このような場合には、その親子関係の有する機能性がヤングケアラーの適応上の保護因子となることが予想される。
 これらのことから、本研究では、行為上の役割逆転が生じている親をケアするヤングケアラーを対象として、情緒面での「役割逆転」が当事者の適応に有する機能を検討する。

方 法
 2018年1月にインターネット調査会社を通じて、親の介護・ケアを担っているヤングケアラーに、インターネット上での質問紙調査を行い、43名を分析の対象とした(うち、女性33名)。分析対象者の平均年齢21.70±2.58歳であった。
使用尺度は以下のとおりである。
1)ヤングケアラー心理尺度 日本語版(Okuyama, 印刷中)
Part AとBの二部構成。Part Aは生活上の負担を反映する、「役割負担」「過当責任」「拘束感情」「健康状態への危惧」「成熟の自覚」「家族への関与」の6因子構造。Part Bはケア感情を反映する、「抱え込み」「ケアに対する自信」「罪悪感」の3因子構造。
2)親子関係の役割逆転尺度(山田・平石・渡邊, 2015)
 「親の過期待」「親の屈折的甘え」「親から子へのサポート放棄」「子どもによる情緒的サポート」の4因子構造。

結 果
 「役割逆転」がヤングケアラーの生活上の負担やケア感情に与える影響を検討する為に、親子関係の役割逆転尺度の下位尺度得点を説明変数、ヤングケアラー心理尺度日本語版を目的変数とした、重回帰分析を行った。
 その結果、「親の過期待」が、生活上の負担を反映する「過当責任」(R2=.306 B=.323)「拘束感情」(R2=.203 B=.450)「家族への関与」(R2=.181, B=.426)に、それぞれ有意な正の影響を示した。ケア感情の側面では、「子どもによる情緒的サポート」から「抱え込み」に正の影響関係(R2=.395 B=.481)、「親の屈折的甘え」から「抱え込み」に正の影響関係(R2=.395 B=.302)、「親の過期待」から「罪悪感」に正の影響関係(R2=.292 B=.463)、そして、「親から子へのサポート放棄」から「罪悪感」で負の影響関係が(R2=.292 B=−.302)、それぞれ示された。

考 察
 ヤングケアラーの生活上の負担に対しては、「親からの過期待」が影響を及ぼす可能性が示された。ケア感情の「罪悪感」に対しても、「親からの過期待」から正の影響が示されており、親から子へと過剰な期待の如何がヤングケアラーの適応と強く関連することが示唆された。
本研究ではデータサンプル数が限られていることから、下位尺度得点ごとで群分けを行っての分析は控えた。その為、“どの程度”の 親の期待が適応上の問題となり得るのか検討を行えなかった。疾病や障がいのある親が、自身のケアを担う子に多少なりともの期待を向けるのは当然でもあり、その程度に関する検討を行うことで、より詳細な知見が得られるであろう。

引用文献
Okuyama, S. (in press). Development of Young carer psychological scale Japanese version: Reliability and validity examination: International Journal of Brief Therapy and Family Science.
山田・平石・渡邉(2016). 大学生における親子関係の役割逆転に関する研究 -疑似成熟との関連から- 家族心理学研究29(1), 1-18.

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