発表

2EV-037

過去のいじめ体験が青年期に与える長期的影響-テキストマイニングによるPTGの検討-

[責任発表者] 長田 真人:1
[連名発表者] 相澤 直樹:2
1:神戸大学, 2:神戸大学

目 的
 いじめは日本の大学生の8割ほどが経験してきた問題であり(森田他,1999),被害者は抑うつや孤独感を感じていることが知られている(David & Michael,2000)。また,いじめ被害の影響は短期的だけでなく長期的にも対人関係問題として,青年期に影響を与えている(Schäfer et al.,2004)。一方で,いじめ体験の長期的影響には肯定的な意味づけがあり(坂西,1995),その中には成長がみられることが明らかになっている(香取,1999)。しかしながら,いじめの長期的影響に関する量的な調査は少なく,また,その過程についての質的検討も十分でない。そこで,本研究では,類似の概念であるPTG(Post Traumatic Growth:心的外傷後成長)に注目する。PTGとは,危機的な出来事や困難な経験における精神的なもがきや戦いの結果生じるポジティブな心理的変容の体験である(Tedeschi & Calhoun,1996)。PTG研究においては体験の違いによりPTGの過程や結果が異なることが示唆されており(宅,2005),いじめについてこうした研究は見られない。以上から,本研究の目的は青年期における過去のいじめ体験からのPTGの検討を量と質の両面から行うこととする。
方 法
 大学生を対象に一斉配布式による質問紙調査を行った。有効な調査協力者は111名(男32名,女72名,その他7名)で平均年齢は18.65(0.89)であった(有効回答率87.40%)。調査時期は2016年4~6月であった。調査内容は,過去のいじめ体験に関する質問(小学校・中学校といじめ被害・傍観),いじめ体験からの学びに関する自由記述,PTGI-J(Taku et al.,2007)であった。
結 果
 まず,いじめ体験による差異の検討を行うためにWard法によるクラスター分析を行い,5群に分類した(Table1)。小中学校を通していじめ体験の多い第1群や第4群,反対にいじめ体験の少ない第2群の他に,傍観体験の目立つ第5群や中学校に入ってのいじめ体験の減少する第3群など,特徴的な分類が行われた。続いて,各群に対しPTGの全体傾向と各下位尺度を従属変数とした一要因分散分析を行った。その結果,新たな可能性でのみ,第1群が他の4つの群に比べて有意に高いことが示された(F(4,106)=3.35,p>.05)。
続いて,テキストマイニングによる検討を行った。分析にはKH-Coder(樋口,2014)を使用した。いじめ体験からの学びに関する自由記述を処理し,685の構成要素を得た。その中からキーワードを整理し,キーワード(22個)と5つのクラスターを基にした対応分析を行った(Figure1)。説明率の高い順に2次元採用し,第1次元を横軸,第2次元を縦軸に示した。第1群は「難しい」,「関係」といった要素,第2群は「弱い」,「心」といった要素,第3群は「人」といった要素,第4群は「周り」,「絶対」,第5群は「人間」といった要素等からなり,共通して人間関係への記述がみられた。

考 察
 本研究では,過去のいじめ体験からのPTGの検討を行った。まず,量的な検討においては,PTG全体傾向において優位な結果が得られなかった。Tedeschi&Calhoun(1996)の示すように,PTGは基本的な信念をいくつかの認知的活動により再構成するプロセスの結果であり,体験をすれば形成されるものではないことが伺える。一方で,下位尺度の新たな可能性でのみ有意な結果が得られたことは,先行研究とは異なる結果である。次に,質的な検討においては,PTGIにおける他者との関係とみられる記述が多く,いじめにおいて特徴的なPTGであると考えられ,亀田・相良(2011)のいう「他者尊重」と同様の記述が得られた。一方で,いじめ体験の少ない群は「人は弱い」などといったPTGIにみられる精神性的な変容を,いじめ体験が多い群は「いじめは絶対しない」などいじめを否定する態度としていじめ否定(四辻,2011)など,いじめ体験により学びが異なる可能性が示唆された。

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