発表

2AM-047

大学生を対象にした精神的健康に関する縦断的研究

[責任発表者] 矢内 希梨子:1
[連名発表者] 小川 さやか:1, [連名発表者] 田山 淳:1
1:長崎大学

目 的
 大学生の修学状況はメンタルヘルスとの関連が深い。休退学理由における精神障害とその疑いで, 最も多い診断は気分障害である。休退学者の中には,大学への修学に関して,不適応感を感じている学生も多い。修学不適応感とは, 修学に集中できていない状態のことであり, 修学への不適応感のことである(Tayama et al, 2015)。修学不適応感が持続することで,気分障害を発症しているケースも少なくない。 
 我々は,大学1年生を対象とした調査において,修学不適応感をもつ大学生が約29%存在することを明らかにしている。さらに,修学不適応感をもつ者は,修学不適応感を持たない者に比べ,心理的苦痛保有リスクが有意に高い(小川ら,2015)。しかしながら,大学1年次の精神的健康状態がその後どのように変化するのかについては詳細に検討されていない。1年次に心理的苦痛度が高い者は,3年後も心理的苦痛度が高い可能性がある。また,1年次に修学不適応感を持つ者は,その後の心理的苦痛得点は高い可能性がある。
 そこで, 本研究では,大学1年次の精神的健康がその後どのように変化するのかについて検討することを目的とする。また1年次の修学不適応感とその後3年次の精神的健康の関連についても検討する。
方 法
対象者:同一大学生コホートを対象とし,1年次とその2年後である3年次に質問紙調査を行った。1年次と3年次の両方のデータがある1,328名(20.7±0.9歳,男性739名,女性589名)を分析対象者とした。
研究デザイン:後ろ向きコホート研究
調査票:1年生および3年生の時の心理的苦痛(Kessler6, 2002)を使用した。Kessler6(以下K6とする)のカットオフポイントは13点とした。1年生の時の修学不適応感の有無(Tayama, Nakaya, Hamaguchi, Sone, Fukudo, & Shirabe, 2015)を使用した。
分析:χ2検定およびt検定を行った。
倫理的配慮:本研究は長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の倫理委員会の承認を得た(承認番号 No. 15013069)。
結 果
 対応のあるt検定を行った結果,全対象の1年次のK6得点に比べ,3年次のK6得点は高かった(t(1327) = 2.41, p <0.01)。1年次にK6カットオフ得点以下であり3年次にK6カットオフ得点以上となった者は,1313名中20名だった(2%)。また,1年次にK6カットオフ得点以上であり3年次にもK6カットオフ得点以上となった者は15名中3名だった(20%)。1年次にK6カットオフ得点以上であり3年次にK6カットオフ得点以上となった割合は,1年次にK6がカットオフ得点以下の者に比べて,高かった(χ2(1) = 29.75, p <0.001)。
 1年次に修学不適応感を持っていた者は,修学不適応感を持っていなかった者に比べて,2年後のK6の得点が高かった(t(1326) = 4.69, p <0.0001)。1年次に修学不適応感を持っていた者の内,1年次にK6カットオフ得点以下であり3年次にK6カットオフ得点以上となった者は336名中10名だった(3%)。1年次にK6カットオフ得点以上であり3年次にもK6カットオフ得点以上となった者は5名中2名だった(40%)。1年次に修学不適応感を持つ者の内,1年次にK6カットオフ得点以上であり3年次にもK6得点カットオフ得点以上となる割合は,1年次にK6カットオフ得点以下であった者に比べて,高かった(χ2(1) = 19.89, p <0.0001)。
考 察
 本研究の結果から,1年次に心理的苦痛得点が高かった者が3年次に心理的苦痛得点が高くなる割合は,1年次に心理的苦痛が低かった者に比べて高かった。大学1年次の修学不適応感を持つ者は,3年次の心理的苦痛得点が高いことが示唆された。大学生活に不満を感じている者は,そうでない者に比べ,精神身体的訴えが高い(武蔵・箭本・品田・河村,2012)。1年次に不適応感を感じている大学生は,将来的に精神的不調を感じやすく,長期的に不適応感が持続することで,心理的苦痛を高めている可能性が考えられる。
 今後は詳細な統計解析が必要であると考えられる。また,1年次の修学不適応感がその後の休学・退学に関連するかについての検討も必要である。
引用文献
小川さやか・田山淳・西郷達雄・髙濵あかり・Peter Bernick・青山友里・林田雅希・調漸 (2015). 修学集中困難感とソーシャルサポート満足感がメンタルヘルスに与える影響 CAMPUS HEALTH第53回全国大学保健管理研究集会(岩手大学)報告書, 53, 366-367.
Tayama, J., Nakaya, N., Hamaguchi, T., Saigo, T., Takeoka, A., Sone, T., Fukudo, S., & Shirabe, S. (2015). Maladjustment to Academic Life and Employment Anxiety in University Students with Irritable Bowel Syndrome. PLoS ONE, 10, e0129345.
武蔵由佳・箭本佳己・品田笑子・河村茂雄 (2012). 大学生における学校生活満足感と精神的健康との関連の検討 カウンセリング研究, 45, 165-174.

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