発表

2AM-042

投影法課題における図版の特性と性格傾向を反映した神経基盤

[責任発表者] 齋藤 大輔:1,2
[連名発表者] Minyoung Jung#:3, [連名発表者] 内海 千種:4, [連名発表者] 相澤 直樹:5, [連名発表者] 牧田 潔:6, [連名発表者] 中村 有吾:4, [連名発表者] 平石 博敏:7, [連名発表者] 石橋 正浩:8
1:金沢大学/連合小児発達学研究科 金沢校, 2:連合小児発達学研究科 金沢校, 3:福井大学子どものこころの発達研究センター, 4:徳島大学, 5:神戸大学, 6:愛知学院大学, 7:浜松医科大学, 8:大阪教育大学

目 的
 機能的磁気共鳴画像法(fMRI)を用いた脳内の局所血流量の計測を通じて,代表的な投影法の一つであるロールシャッハ法(Rorschach Inkblot Method: RIM)課題遂行時の心理・認知的活動を脳機能の観点から解明することを目指す。これまで,投影法課題実施中において前頭葉の血流に変化が起こることがfMRIや近赤外線分光法(NIRS)により明らかにされている(相澤ら, 2010, 2013, Ishibashi et al., 2016)。しかし,投影法課題遂行中の神経活動について,異なる図版の特性がどのように反映されているのか,また,その違いが被験者個人の性格傾向とどのような関連を示すのか不明であるため, fMRIを用いて研究を行った。そして,投影法の神経心理学的基礎を理解する手がかりとして,RIMをはじめとする投影法課題実施時における脳内血流動態に関するデータを脳機能イメージング法により解析し,その心理学的特徴を検討するとともに,投影法の科学的正当性・妥当性を明らかにするための基礎的なデータを収集・蓄積する。
方 法
 研究対象者は,精神科既往歴のない,右利き健常被験者40名(男性20名,女性20名:平均年齢24.7±4.8歳)。脳機能計測のために,GE社3.0T MRI装置を用い,脳全体を対象として撮影を行った。脳機能の解析にはSPM12(University College London,UK)を使用した。実験課題には,10枚の国際版ロールシャッハ図版と,対照条件の刺激画像として既知の図形を用い,プロジェクターにて被験者に提示した。それらの図版をMRI装置内で提示し,被験者は提示された図形が何に見えるかを判断し,ボタン押すことで回答した。これらの回答については,fMRI実験終了後に装置外で改めて報告を受け,それぞれの図版に対する反応数や反応内容などを検討した。
 また,課題遂行中の脳活動以外にも,エフォートフル・コントロール(EC)尺度,強迫性障害の尺度(MOCI),社会的自己制御(SSR),状態-特性不安尺度(STAI)といった,個人の性格傾向などを調査する質問紙検査を行い,図版の特徴と脳活動,性格傾向との関連についての検討を行った。
結 果
 fMRIを用いた脳機能解析の結果から,色彩のないRIM図版の認知に関わる神経基盤として,前頭葉,頭頂葉,後頭葉の広い範囲に活動が見られた。また,色彩のあるRIM図版の認知に関わる神経基盤として,前頭葉,側頭葉,海馬,頭頂葉,後頭葉などにおいて活動が見られた。
 図版の色彩の有無に関する脳活動と被験者個人の性格傾向との相関を調べたところ,無色彩図版では,MOCIのスコアと中側頭回・背外側前頭前野・後部帯状回,EC尺度と中心溝・下前頭葉・中側頭回,SSRと背外側前頭前野,強迫性障害のスコアと中側頭回・帯状回の活動との間に相関が見られた。対して,色彩図版では,うつに関係したスコアと海馬,MOCIと頭頂葉・島皮質,EC尺度と中心溝・下前頭葉・中前頭葉・中側頭回・島皮質,強迫性障害のスコアと中側頭回の活動との間に相関が見られた。
考 察
 本研究では,RIM図版の認知に関わる神経基盤,特に図版の特徴の違いによる性格傾向と神経基盤の関係について脳全体を対象とした計測をすることで明らかにした。先行研究(Ishibashi et al., 2016)でも報告しているように,色彩の有無にかかわらず,前頭葉を含めた広い脳領域において図版の処理が行われていることが示された。また,RIM図版の認知を行う際に活動の見られた脳領域には,性格傾向との関連が報告されているが(齋藤ら,2015),その性格傾向による違いが図版の特徴による違いとどのように関連しているかを明らかにした。そのことより,「情動の経験や表出の制御」,「強迫性傾向の有無」,「社会的自己制御」,「不安になりやすい反応傾向」といった個人の性格傾向と図版による違いが,前頭葉だけではなく,側頭葉や島皮質などの異なる神経基盤で表象されていることが明らかになった。これらのことから,代表的な投影法の一つであるロールシャッハ法は,複雑な個人の性格傾向や情緒的機能を反映していることが示され,性格傾向の評価は図版の特徴により異なっていることが示唆された。
引用文献
相澤直樹・石橋正浩・内海千種・牧田潔 (2010).NIRSによるロールシャッハ課題遂行時の前頭葉血流変化に関する予備的検討(1)(2). 日本心理学会 第74回大会発表論文集.
相澤直樹・石橋正浩・中村有吾・牧田潔・内海千種・岩切昌宏 (2013).ロールシャッハ課題遂行時の前頭前野機能について–近赤外分光法(NIRS)を用いた試行的研究. 神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 研究紀要 6(2),51-56.
石橋正浩・内海千種・相澤直樹・牧田潔・齋藤大輔 (2014). 脳機能から考えるロールシャッハ法課題の反応過程の概観. 大阪教育大学 発達人間学論叢 17, 77-82.
齋藤大輔・内海千種・相澤直樹・牧田潔・中村有吾・石橋正浩 (2015).投影法課題実行時における性格傾向を反映した神経基盤. 日本心理学会 第79回大会発表論文集.
Ishibashi, M., Uchiumi, C., Jung, M., Aizawa, N., Makita, K., Nakamura, Y., Saito, D.N. (2016). Differences in brain hemodynamics in response to achromatic and chromatic cards of the Rorschach: A fMRI study. Rorschachiana. 37(1), 41-57.
付記
本研究は,平成28〜32年度 科学研究費助成事業(基盤研究(C) 課題番号16K04358,研究代表者:石橋正浩)の助成による成果の一端である。

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