発表

2AM-040

身体運動を用いた高齢者の認知機能の評価

[責任発表者] 槇坂 苑花:1
[連名発表者] 吉田 弘司:1
1:比治山大学

 目的
 昨今,高齢化に伴い認知症患者の増加が見込まれ,認知症およびMCIへの取り組みに期待が高まっている。吉田(2017)は,身体を動かして画面上の風船を割るゲームを開発し,大学生と発達障害児のデータを収集し,ゲームの成績が脳の前頭葉の抑制機能を反映することを見出した。認知症においても同様に抑制機能が低下する。そこで本研究では,吉田(2017)の課題を用いて,高齢者の認知機能評価を行い,本課題の認知症スクリーニング検査としての有用性を探ることを目的とした。
 方法
 参加者は広島市内デイサービスに通所している高齢者18名(健常高齢者16名,認知症者2名)が実験に参加した。平均年齢は健常高齢者が81.9歳で,認知症者が83.5歳であった。装置はPC(Microsoft Surface Pro 3)およびセンサ(Microsoft Kinect V2)およびモニタとして施設の大型液晶テレビを借りて使用した。実験課題は,画面に写る参加者のそばに風船の絵が1つ出現し,風船と映像の中の参加者の手が重なると,風船を割ることができるようになっていた。参加者は60秒の制限時間内にできるだけ多くの風船を割るよう教示された。条件として鏡映要因を設け,モニタに写る映像が鏡映像のミラー条件と,鏡映像の左右が逆の反転ミラー条件を設定した。
 結果
 吉田(2017)が大学生を対象に行った同実験の平均反応時間と,本研究における高齢者の平均反応時間を比較し,Figure 1に示した。高齢者のデータは,両条件に参加した12名の健常高齢者のデータを用いた。この平均反応時間を従属変数として,群×条件の2要因分散分析を行ったところ,群の主効果(F(1,22) = 8.78, p < 0.01),条件の主効果(F(1,22) = 7.54, p < 0.05),群×条件の交互作用(F(1,22) = 4.72, p < 0.05)のすべてが有意であった。群×条件の交互作用について単純主効果の下位検定を行ったところ,群の単純主効果はミラー条件では有意ではなく(F(1,44) = 1.27, ns),反転ミラー条件で有意であったこと(F(1,44) = 13.50, p < 0.001),および条件の単純主効果が大学生では有意でなかったが(F(1,44) =0.16, ns),高齢者では有意であったこと(F(1,44) = 12.10, p < 0.005)がわかった。
 Figure 2は,実験に参加した18名の高齢者の個別の反応時間である。このうちQとRが認知症者であった。Figure 1のSDからわかるとおり,認知症者に限らず,参加者間に反応時間のばらつきがみられた。ミラー条件に2回参加した高齢者は8名だったが,認知症者を除く6名ではすべて成績の向上がみられた。また,反転ミラー条件に2回参加した9名のうち,成績が向上したのは6名であった。
 考察
 反転ミラー条件は,日常生活において鏡を見ているときの自動化した反応を抑制しながら,鏡とは反対に動かなければならないため,前頭葉の抑制機能を反映すると考えられる。吉田(2017)においても,前頭葉の抑制機能が未発達と考えられる多動性の高い発達障害児では,反転ミラー条件においてより大きな反応時間の遅延がみられた。注意を要する認知課題において,高齢者が注意の切り替えや不要な情報の能動的抑制に困難をもつことはよく知られる事実であるので,本研究で得られた高齢者が反転ミラー条件を苦手とする傾向も,加齢に伴う前頭葉機能の低下を反映するのではないだろうか。このように考えれば,本研究で用いた課題は,高齢者の認知機能を評価するひとつの指標になりえると考えられる。本研究では,課題を繰り返して行うことで,ミラー条件では健常高齢者の全員が,反転ミラー条件でも3分の2が成績の向上を示した。したがって,この課題は,認知症スクリーニング検査としての有用性だけでなく,脳機能のリハビリテーション課題としても,施設のレクリエーション等で活用できるのではないだろうか。
 引用文献 
吉田 弘司 (2017). 身体センサと拡張現実を応用した視覚運動協応の評価――風船割ゲームを用いて―― 日本心理学会第81回大会発表論文集 p.535.

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