発表

2AM-039

子どもの強みへの注目と精神的健康との関連

[責任発表者] 阿部 望:1,2
[連名発表者] 岸田 広平:1,2, [連名発表者] 石川 信一:1
1:同志社大学/日本学術振興会特別研究員, 2:日本学術振興会特別研究員

目 的
これまで,子どもの強みに関する研究が数多くなされ,子どもの強みと精神的健康との関連が示されてきた(Gillham et al., 2011)。また,近年,学校で子どもの強みの育成を目指した介入が実施されるようになり,生活満足度といった精神的健康の向上に効果があることが報告されてきた (Proctor et al., 2011)。このような子どもを対象とした強み介入では,自分の強みを考えることや活かすことに加え,他者の強みについて考えるといった介入要素の重要性が指摘されている (Linkins et al., 2015)。しかし,自己・他者の強みを考えるといった介入の構成要素と精神的健康との関連についてはこれまで詳細な検討がなされておらず,その効果については明らかでない。
そこで,本研究では,強みへの注目に着目し,自己と他者の強みへの注目と精神的健康 (生活満足度・抑うつ) との関連について1ヶ月の期間をあけた縦断調査による検討を行った。
方 法
 調査対象 小学5,6年生118名,中学1,3年生268名のうち,2回の調査で記入漏れ・記入ミスのなかった291名 (平均年齢12.82歳,男子139名,女子152名) を分析対象とした。
 調査時期 2017年9月 (1時点目:T1) と2017年10月 (2時点目:T2) に実施した。
 調査材料 1. 子ども用強み注目尺度:阿部他 (2017) の質問項目を一部改変した尺度であり,自己の強みへの注目7項目,他者の強みへの注目8項目,計15項目の尺度である。5件法で回答を求めた。自己の強みへの注目の信頼性は,T1でα = .88,T2でα = .94であり,他者の強みへの注目の信頼性は,T1でα = .86,T2でα = .92であった。2. 日本語版SLSS (吉武,2010):生活満足度に関する7項目の尺度である。6件法で回答を求めた。信頼性は,T1でα = .79,T2でα = .82であった。3. 子ども用抑うつ自己評価尺度 (DSRS) 日本語版 (村田ら,1996):抑うつに関する18項目の尺度であり,そのうち16項目を使用した。3件法で回答を求めた。信頼性は,T1でα = .80,T2でα = .83であった。
結 果
 強みへの注目 (自己の強みへの注目・他者の強みへの注目) と精神的健康 (生活満足度・抑うつ) の関係性を検討するために,まず,同一時点での4変数の相関関係と2時点の同一変数間に遅延パスを引いた遅延モデルを検討し,次に,4変数の間に交差遅延効果パスを追加した交差遅延モデルを検討した。なお,自己・他者の強みへの注目得点には性差や発達段階による有意な差がみられたことから,性別 (男子=0, 女子=1) と発達段階 (小学生=0,中学生=1) を統制変数として加えた。2つのモデルの適合度をTable 1に示す。2つのモデルの比較を行ったところ,遅延モデルよりも交差遅延モデルの方が,カイ二乗値が低く,モデルの適合度が向上することが示された (Δχ2 (5) = 37.51, p <.001)。Figure 1に最終的に採用された交差遅延モデルのパスと共分散の標準化係数を示す。分析の結果,T1の自己の強みへの注目からT2の生活満足度に有意な正のパスが示され (β = .10, p = .028),T2の抑うつに有意な負のパスが示された (β = -.10, p = .014)。一方,T1の他者の強みへの注目からT2の生活満足度・抑うつに対する有意なパスは示されなかった。
考 察
 本研究の結果,影響は小さかったものの,自己の強みへの注目の高さは,1ヶ月後の精神的健康を高めることが示唆された。このことから,自分の強みを考えさせるなど,子どもが自分の強みに注目できるような介入を実施することは,子どもの精神的健康を高める上で有効である可能性があると考えられる。一方,他者の強みへの注目の高さは,1ヵ月後の精神的健康の高さを予測しなかった。大学生を対象とした高橋 (2016) において,自己と他者の両方の強みへの注目が高い者と,自己の強みへの注目のみが高い者の精神的健康には差がなかったことが示されている。この研究と本研究の結果を踏まえると,精神的健康の高さには,自己の強みへの注目のみが関連しているのかもしれない。今後は,実際に子どもの強みへの注目を増加させる介入を実施し,自己・他者の強みへの注目と精神的健康との関連について,本研究と同様の知見が得られるか,より詳細な検討を行う必要がある。
引用文献
阿部 望・岸田 広平・石川 信一 (2017). 子ども用強み注目尺度作成の試み 日本心理学会第81回大会発表論文集,90.

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