発表

2AM-032

感動体験が抑うつに与える影響についてー生き方を媒介変数とした構造方程式モデルを用いた検討ー

[責任発表者] 阿部 嘉巳:1
[連名発表者] 内田 知宏:2
1:筑波大学, 2:尚絅学院大学

目 的 今までの感動体験に関する心理学的研究において、戸梶(2004)は大学生を対象に「自分の何かを変えた感動的な出来事」に関する検討を行っている。結果として、感動には大きく分けて、やる気や自己効力などの「動機づけ」に関する効果、思考転換や興味拡大などの「認知的枠組み」に関する効果、人間愛、利他意識などの他者思考・他者受容に関する効果の3つがあげられ、このような効果はその個人の生き方に影響を及ぼすような重要な営みと関連していることが示されている。また、感動体験の持つような心理的効果に関しては、臨床心理学分野においても研究がされており、自己効力感については、抑うつの傾向が高い時には自己効力感は低く、抑うつの傾向が低い時には自己効力感が高いという、負の相関が見られることが示されている(坂野、1989)。さらに、対人関係においても、ソーシャルサポートといった観点や関係そのものが精神的健康に与える影響についての研究もなされている(橋本、1997)。以上を踏まえ本研究では、大学生を対象に、どのような感動体験が積極的な生き方や認知的側面、対人関係に影響を与え、ひいてはそれが、精神的健康に影響を及ぼしているのかについて検討する。
方 法 調者対象 大学生191名(男性85名、女性106名、平均年齢19.57歳、SD1.19)に大学の講義時間の10分程度を使用し、調査の目的を口頭で説明した後質問紙調査を行った。回収は、配布したその場で行った。
質問紙の構成:感動体験の測定には、畑下・瀬戸(2011)の「感度体験尺度」を用いた。これは、今までの感動体験の頻度を測定する尺度で、「対人関係による支援・気づき」「作品鑑賞・自然による発見・触発」「達成感)」「一体感」の4つの下位尺度からなる。生き方の測定には、板津(1992)の「生き方尺度」を用いた。この尺度は、人の生き方や生き様、社会や他者とのかかわりあいの中で生きていく人間の主体的な生活態度を測定する尺度で、「能動的実践的態度」「自己の創造・開発」「自他共存」「こだわりのなさ・執着心のなさ」「他者尊重」の5つの下位尺度からなる。精神的健康に関する尺度は抑うつ傾向を測定するものとしてBDI-II(Beck Depression Inventory :Beck et al,1996;小島・古川、2003)を用いた。
結 果 感動体験尺度の合計得点と生き方尺度の合計得点は正の相関(r=.57、p<.01)、感動体験尺度の合計得点とBDI-IIは負の相関(r=-.27、p<.01)、生き方尺度の合計得点とBDI-IIは負の相関(r=-.34、p<.01)を示した。さらに、感動体験尺度及び、生き方尺度の得点がBDI-IIの得点に与える影響を明らかにするためにパス解析を実施した(Figure 1)。
その結果、感動体験から生き方を経由した間接効果を示すパス係数は-.23(p<.001)であり、モデルの適合度指数はGFI=.96、RMSEA=.07、CFI=.98であった。
さらに詳しく検討するために、感動体験の下位尺度及び生き方からBDI-IIに与える影響についてのパス解析を実施した。その結果、一体感からBDI-IIへのパス係数は-.20(p<.05)であり直接効果が示された。モデルの適合度指数は、GFI=.98, AGFI=.95, RMSEA=.000, CFI=1.00であった。
考 察 本研究の結果から、感動体験は動機づけの側面や人間関係の側面といった生き方によい影響を及ぼし、ひいてはそれが総合的に抑うつ傾向を低下させるという影響があることが明らかになった。また、感動体験の各因子ごとの分析においては、一体感を得るような感動体験は、抑うつに対し直接的にその傾向を低下させるといった影響が現れた。感動体験のようなポジティブな自伝的記憶は、後に想起をすることで、ネガティブな気分を緩和する感情抑制機能が示されており(Erber & Erber,1994)、長期的、直接的な影響が考えられる。また、佐々木・皆川(2013)らの研究において、最も記憶に残る感動体験の中には、友人・仲間を対象としたものがあることが示されており、一体感という感動体験は「みんなが一つにまとまっているのを感じた」などの質問項目から上記の感動に当てはまるものとして推測され、日ごろ経験される感動よりも、重要なものとして想起され、直接的な影響が出たのではないかと推察された。
引用文献 畑下真里菜・瀬戸美奈子(2011)総合福祉科学研究, 3, 97-104.
佐々木智美・皆川直凡(2013)鳴門教育大学情報教育ジャーナル,10,21-28.
戸梶亜紀彦(2004)広島大学マネジメント研究, 4,27-37.

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