発表

2AM-031

塗り絵による脳活動および気分の変化

[責任発表者] 野末 美和子:1
[連名発表者] 近江 政雄:1, [連名発表者] 長尾 紀久子#:2
1:金沢工業大学, 2:金沢適応カウンセリング&研究センター

目 的
 創作活動を通して心理的な開放感や精神的な安定感を増す絵画療法には様々な技法があるが,絵を描くことを苦手とする人にとっては抵抗感を感じるものが多い。そこで、絵の不得手が関係ない絵画法として「塗り絵」が挙げられる。構造化されている塗り絵は,過度に創造性を要求されないため,精神的な安定感を増しやすく,芸術活動の素人にとっては,心理療法としての難易度が低く取り組みやすい。また,近年「大人の塗り絵」が一般に広く販売されており,自由に色彩表現をすることで癒しの効果が得られ,また指や手を動かすことで脳の活性化を促すとも言われている(初田, 2007)。Eaton & Tieber(2017)は,塗り絵課題の構造が不安と気分に影響を与えるかを調べる研究を行った結果,自由に彩色する群が模倣して彩色する群よりも,ポジティブ気分の低下がより小さく,ネガティブ気分の低下がより大きく,不安の低下がより大きくなり,構造の程度が不安と気分の変化に影響を与えることが示された。本研究では,絵画療法での塗り絵の有効性を確認するため,顕在意識における不安を含む気分の変化を追試することに加え,新たに,潜在意識における脳活動でも,塗り絵課題の構造による変化が見られるのか,健常者を対象に実験を行った。

方 法
参加者 10名(内女性6名,M=29.4歳)を対象とした。
塗り絵 横15.4×縦10.5㎝の枠の中に波と星が描かれた下絵,塗り絵サンプル(強制選択群用)と色鉛筆36色(CB-NQ 36C:トンボ鉛筆)を用いた。
質問紙 POMS 2 成人用短縮版を使用した。
装置 簡易脳波計(Emotiv PRO:イノバテック)と脳波測定用にPCを使用した。
課題 自分の望む色を使用して彩色する自由選択群と,模倣して彩色するように指示された強制選択群に分け,塗り絵を20分間行った。強制選択群用の塗り絵サンプルは,7色で彩色されており,使用した色鉛筆に目印としてシールが貼付されていた。
手続き 実験手続きの説明後,国際10-20法に基づき簡易脳波計を装着し,目を閉じて楽な姿勢でいることを教示した上で,脳波を2分間測定した。次に,「今現在,どのように感じているか」を,POMS 2成人用短縮版を用いて測定した。そして,参加者を自由選択群と強制選択群に分け,塗り絵課題を20分間実施した。課題実施の間,実験者は退室し,参加者のみで課題を行った。課題後は,課題前と同様に脳波とPOMS 2の測定を行い,最後にアンケートの記入を行い終了した。本研究は金沢工業大学の倫理委員会の承認を得た上で行われた(承認番号196)。

結 果
脳活動の変化 14chの内,前頭葉の8ch(AF3,F7,F3,FC5,FC6,F4,F8,AF4)について,脳波解析ソフトbrainstormを用いて,FFT(高速フーリエ変換)解析を行った。PreとPostでパワー値の差が大きかったため,目を閉じた状態で安定する後頭葉の2ch(O1,O2)を基準に,相対比でパワー値を算出した。その際,O1とO2でノイズが大きかった自由選択群の1名を除外した。選択群(自由,強制)× Pre / Postの2要因分散分析の結果,交互作用が有意であり(P<.0005),強制選択群が自由選択群よりも課題後にα波が有意に増加した。課題前後のα波の変化を図1に示す。
気分の変化 POMS 2 成人用短縮版を採点し,TMD(総合的気分状態)とTA(緊張-不安)を含むネガティブ気分の6尺度とポジティブ気分のVA(活気-活力)のT得点平均において,脳波同様の2要因分散分析を行った結果,いずれも交互作用がみられなかったものの,両群ともにネガティブ気分の6尺度で課題後わずかにT得点の低下が見られた。

考 察
脳活動 強制選択群が自由選択群よりも有意にα波が増加した要因として,より構造化している強制選択群の方が創造性を要求されないため,精神的に安定したことが考えられる。より構造化した塗り絵が,絵画療法には有効である可能性が示された。
気分 顕在意識の気分で有意な変化が見られなかった要因として,実験室という特殊な環境や,ラポール形成の不十分さが気分に影響した可能性が考えられる。
脳活動および気分いずれも,更なる追加の実験による検証が必要であると思われる。

引用文献
Judy Eaton, & Christine Tieber (2017). The Effects of Coloring on Anxiety, Mood, and Perseverance. Art Therapy: Journal of the American Art Therapy Association, 34(1), 42-46
初田 隆 (2007). 「ぬり絵」の研究 美術教育学:美術科教育学会誌, 28, 321-333.

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