発表

1EV-026

心理社会的ストレッサーに対するコルチゾール反応は心拍知覚を促進する

[責任発表者] 前田 駿太:1
[連名発表者] 荻島 大凱#:2, [連名発表者] 嶋田 洋徳:2
1:東北大学, 2:早稲田大学

目 的
 内受容感覚(interoception)は身体の内部で生じた生理的な反応についての感覚を指す概念である(Cameron, 2001)。近年,臨床心理学領域においては,臨床的問題と内受容感覚知覚の関係についての研究が多く行われつつある。たとえば,社交不安傾向が高い者は,そうでない者と比較して自身の心拍を知覚しやすいことが報告されている(Stevens et al., 2011)。この心拍知覚の高さは社交不安を示す者にみられる過度な生理的覚醒についての訴えや不安感の増大につながる特徴であると考えられている。このような例をはじめ,過剰な内受容感覚知覚はさまざまな不適応状態に関与すると考えられ,内受容感覚知覚に影響を及ぼす要因の解明は重要な課題である。
 従来,内受容感覚知覚を促進しうる要因として,ストレス関連疾患であると考えられる,身体症状症患者にみられる身体症状についての訴えなどを背景として,ストレッサーの経験の影響が理論的に想定されてきた(e.g., Barsky & Borus, 1999)。しかしながら,ストレッサーの経験が心拍知覚に及ぼす影響をリラクセーションとの比較で直接検討した先行研究においては,ストレッサーの経験による心拍知覚の促進は報告されていない(Fairclough & Goodwin, 2007)。このような理論と研究知見の不整合を理解する一環として,本研究においては,ストレッサーの経験の有無ではなく,ストレッサーに対して分泌される副腎皮質ホルモンであるコルチゾール反応の程度が心拍知覚に及ぼす影響を検討した。
方 法
参加者 大学生および大学院生36名(女性20名,男性16名,平均年齢21.7±1.7歳)が実験に参加した。
測度 心拍知覚に影響を及ぼす可能性がある参加者の特徴の記述のために,抑うつ症状を日本語版Center for Epidemiological Studies Depression Scale(島他,1985),および社交不安症状を日本語版Social Phobia Scale,Social Interaction Anxiety scale(金井他,2004)によって測定した。
手続き コルチゾールの概日リズムの影響を統制するために,実験は午後1時から午後7時の間に実施した。参加者は約20分の安静期の後,内受容感覚知覚の測定のために心拍知覚課題(Schandry, 1981)を行った。その後,心理社会的ストレス負荷課題であるTrier Social Stress Test(TSST;Kirschbaum et al., 1993)を行った。その後再度心拍知覚課題を行って実験を終了した。また,コルチゾール値の測定のために4時点(安静期終了時,TSST開始直前,TSST終了直後,TSST終了10分後)で唾液の採取を行った。
倫理的配慮 本研究は早稲田大学「人を対象とする研究に関する倫理審査委員会」による承認を受けて実施された(承認番号:2016-195)。
結 果
 Miller et al.(2013)の基準に基いて,ベースラインから15.5%以上の明確なコルチゾール反応がみられた者をResponder(n = 19),それ以外の者をNon-responder(n = 17)と定義した。ResponderとNon-responderの間で,男女比,年齢,抑うつ症状および社交不安症状に差はみられなかった(ps > .30)。TSSTの前後の心拍数の変化について検討するために,心拍数(bpm)を従属変数,群2(Responder,Non-responder)×時期2(Pre,Post)の2要因分散分析を行った結果,いずれの主効果および交互作用も有意ではなかった(Fs < 1.84, ps > .18)。一方で,心拍知覚を従属変数とした同様の分散分析を行った結果,群と時期の交互作用が有意であった(F(1,34)= 5.80, p = .02)。そこで,単純主効果の検定を行った結果(Figure 1),Non-responderにおいてはPreからPostにかけて心拍知覚の変化がみられなかった一方で(p = .31),Responderにおいては心拍知覚が有意に向上した(p = .02)。
考 察
実験の結果,TSSTに対して強いコルチゾール反応を示した者のみにおいて,TSSTの経験前後の心拍知覚の向上がみられた。心拍数そのものについては群間差がみられなかったことから,この結果はコルチゾール反応による「知覚」の変化として解釈できる。具体的には,中枢神経系,とくに感覚情報の処理に関与する,視床にコルチゾールがフィードバックを行う中でこのような影響が生じた可能性が考えられる(e.g., Schulz et al., 2013)。これらのことから,ストレッサーの経験に伴う内受容感覚知覚の変化は,コルチゾール反応に媒介されて生じる可能性が示唆された。

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