発表

1AM-036

筋ジストロフィー患者が抱える困難への心理支援における課題

[責任発表者] 藤野 陽生:1,2
1:大分大学/大阪大学, 2:大阪大学

目 的   

筋疾患には筋炎やミオパチーなど様々な病態が含まれるが、その代表的なものが、筋ジストロフィーである。筋ジストロフィーは、遺伝性の疾患であり、進行性の筋力低下に加え、その病型によっては、多臓器に影響を及ぼす全身性の疾患でもある。その結果として、身体の移動や運動に加え、家事などの日常生活や対人関係といった社会生活にも制約が出てくることとなる。結果として、筋ジストロフィーの患者の生活の質(QoL)は病状に大きく影響されることとなる(Graham et al., 2015)。
近年、遺伝子治療をはじめとしたさまざまな治療研究が行われているものの、現状では根治的治療法がないことから、理学療法などのリハビリテーションに加え、福祉的支援、そして、心理社会的支援が彼らのQoL支援を考えるうえで重要な役割を占めている。そのような現状において、さまざまな支援の実践が行われている一方、心理社会的な支援の効果を検討したものは、これまでに数少ない。また、筋ジストロフィーを抱える者の心理学的な困難のモデル化も十分に行われていないことから、支援モデルの検討も必要となってくると考えられる。そこで、本研究では、国内外の研究をレビューし、これまでに行われてきた研究において提案されているモデルや心理社会的介入研究の知見を統合することが可能であるかを検討することを目的とした。

方 法   

筋ジストロフィー者に対する心理社会的支援を行った介入研究をレビューし、それらの研究の知見を統合することができるかについて検討する。
検索のデータベースとして、PubMed、Scopusなどのデータベースを用いた。また、検索に用いるキーワードとして、「筋ジストロフィー」「Duchenne型筋ジストロフィー」、「ジストロフィン異常症」、「筋強直性ジストロフィー」、「心理療法」、「認知行動療法」など、筋ジストロフィーに含まれる複数の具体的な病型や心理社会的介入に関するキーワードを含め、検索を行った。また、選択基準として、日本語もしくは英語により書かれた査読付き雑誌に掲載されたものであること、筋ジストロフィー患者が対象となっている、もしくは、筋ジストロフィーを含む神経筋疾患患者が対象の場合には、多くを筋ジストロフィーの患者が占めていることなどの基準を作成し、それらの基準に基づき、分析に含める論文を選択した。

結 果   

検索によって抽出された介入研究は、2件であった。また、介入研究であるが、プロトコルのみで未だ結果が報告されていないものが1件あった。介入では、リハビリテーションを中心とした個人プログラム、スカイプ等を通じた集団認知行動療法のものがあった。前者(Ahlstrom et al., 2006)においては、健康関連QoL、気分等が測定されていたが、介入の効果はみられなかった。一方、後者の研究ではQoLに関連した複数領域での改善を報告していた(Martinez et al., 2014)。これらの研究は、GRADEの評価では質が「低い」と評価され、効果を示す確かな根拠は十分に得られなかった。
心理支援に向けた研究として観察研究によるものも含めて概観したところ、疾患の認知や疲労感を主要アウトカムとした研究などがみられ、介入の効果を評価する尺度の筋ジストロフィーにおける妥当性の評価の必要性が検討された。

考 察   

筋ジストロフィーに対する心理社会的方法を用いた介入研究はごくわずかであり、介入研究のための理論的枠組みを検討していく必要がある。さらに、介入効果の評価方法にも課題がみられた。また、抑うつや不安の問題に対して認知行動療法などでよく用いられてきた、行動活性化や運動など、移動や身体活動を伴う活動は、筋疾患を持つ者には適用することが難しい場合が少なくない。また、症状の訴えや重症度に応じた計画も必要であり、近年実施された認知行動療法を用いた国際共同研究の結果の報告が待たれる(van Engelen, 2015)。
病型や病状によっては、認知機能障害を伴う場合もあることから、それらの疾患の特性に合わせた介入方法の開発が必要となってくると考えられる(Graham et al., 2018)。しかし、筋ジストロフィー自体が希少疾患であり、国内での大規模な介入研究の実施は大きな困難を伴うと想定される。規模は小さくとも、質の高い臨床研究、あるいは国際共同研究が求められる。また、そのような研究を実施していくための本邦におけるアウトカムメジャーの妥当化も必要と考えられる。

引用文献   

Ahlström, G., Lindvall, B., Wenneberg, S., Gunnarsson, L.G. (2006). Clinical Rehabilitation, 20(2), 132-141.
Graham, C.D., Simmons, Z., Stuart, S.R., & Rose, M.R. (2015). Muscle & Nerve, 52(1), 131-136.
Graham, C.D., Kemp, S., Radakovic, R., Kapur, N. (2018). Muscle & Nerve, 57(5), 701-704.
Martínez, O., Jometón, A., Pérez, M., Lázaro, E., Amayra, I., López-Paz, J., . . . Bárcena, J. (2014). The Spanish Journal of Psychology, 17, E86.
van Engelen, B. (2015). Trials, 16, 224.

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