発表

3EV-009

幸せになるために今日できること ー幸福感を予測する人工知能技術ー

[責任発表者] 山本 哲也:1
[連名発表者] 吉本 潤一郎#:2
1:徳島大学, 2:奈良先端科学技術大学院大学

目 的
 幸福感に関する従来の研究では,一般的に幸福感の構成要素に関する理解には寄与する一方で,「今日,私は何をすれば幸福感が高まるのか」といった特定の個人の状況下において幸福感をもたらす要因については,部分的な示唆にとどまると考えられる。そのため,本人の状況・状態を考慮し,選択しうる行動に基づいた幸福感を予測する技術を確立することは,QOL向上のための行動選択の際に,有用な手がかりの一つとなる可能性がある。
 本研究では,山本・吉本(2017)の手法を応用し,日々の行動的・生理的・心理社会的情報(以下,ライフログ)に対して,人工知能技術の一つである機械学習法を適用することで,個人の幸福感を予測する基盤技術の創出を試みる。

方 法
 研究対象 都市近郊部在住の20代の男性1名。健康上の問題および重篤な疾患の既往はない。研究実施に関わる同意は得られており,個人が特定されないよう表記を一部修正した。
 測定指標 (a)ポジティブ気分や幸福感などの気分状態の頻度・程度,(b)思考内容や反すうなどの認知行動傾向の頻度,(c)腹部症状や抑うつなどの心身の症状の頻度・有無,(d)出来事の頻度,(e)職務や余暇活動などに関わる行動の頻度,(f)睡眠時間や運動量などの健康習慣の程度,(g)休日かどうか,といった計55種類を用いた(Figure 1)。
 手続き 対象者に対し,上記の変数について日々の生活の中で記録を求めた。記録を容易・簡便にするため,Count Log Lite ver.1.8.3,MoodTools ver.1.3,Fitbit Alta HRが用いられ,調査は約8ヶ月間行われた。
 解析手続き 237日分のライフログデータのうち,最終的に172日分を訓練データとし,46日分を評価データに用いた。各指標をZスコア化し,相関関係に基づいて変数を制約した後,サポートベクターマシン(以下,SVM)によって構築された予測器による幸福感(高・中・低)の予測精度を検証した。

結 果
 SVMにおける予測器は,評価データに対して全体として82.6%の正答率を示した(Figure 2)。また,幸福感の高い日に対する予測の正答率は80%,中程度の日に対する正答率は100%であったのに対して,低い日に対する正答率は0%という結果となった。

考 察
 本研究の結果から,ライフログデータに対して機械学習法を適用することによって,幸福感を高く報告する日については,8割という一定の精度の確率で予測できることが明らかになった。すなわち,ある特定の状況下において,どのような行動をとれば幸福感を高めやすくなるか,といった点について,この手法は示唆を与えうると考えられる。具体的な活用例として,構築された予測器に,その日の状況をあらわす特徴量(たとえば,ネガティブ気分や仕事量)と,その日に実行可能な何らかの活動をあらわす特徴量(たとえば,アクティブな活動や余暇活動)を入力することで,入力値に応じた幸福感が出力される。そのため,こうした出力結果を参考にすることで,幸福感を高めるための対処方略を選択するための検討材料の一助とすることができる。本手法は,個人に特化した生活情報を用いることから,利用者に最適化された,幸福感を最も高めうる予測技術となることが期待される。
 一方で,今回の結果では幸福感の低い日に関する予測精度は低かった。この要因として,訓練データ内において,低い幸福感を報告した日が極めて少なかったこと(全体の7%)が挙げられる。今後,さらに高精度の予測器を構築する上では,幸福感を鋭敏に反映する測定指標の採用や,他のカーネル関数および学習アルゴリズムの試行による性能比較が望まれる。

引用文献
山本哲也・吉本潤一郎 (2017). 人工知能とライフログを活用したQOL向上のための行動変容法 日本健康心理学会第30回大会発表論文集, 126.

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