発表

3PM-015

繰り返し囚人のジレンマにおけるExtortion戦略の有効性

[責任発表者] 米谷 充史:1
1:神戸大学

目的
囚人のジレンマは,相互作用関係にある 2 者間に起こる利 益の葛藤状態のモデルである。Axelrod(1984)は,戦略トー ナメントの結果から,繰り返し囚人のジレンマで成功するに は互恵性が重要であり,応報戦略の有効性が高いとした。し かし,Press & Dyson(2012)は Zero-determinant(ZD)戦略モ デルを見出し,必ずしも互恵性に基づかなくとも相手の協力 を促進しうることを理論的に示した。ZD 戦略は,1 つ前の回 の結果に基づいて確率的に選択を行うことで,両者の得点の 間に線形関係を強いる戦略である。ZD 戦略の 1 種である Extortion 戦略は,たまに自分から裏切りを選ぶことで,相手 の得点より自分の得点の方が高くなる関係を強いるものであ る。この戦略は搾取的ではあるが,対戦相手の最適反応は協 力し続けることであり,そうすることでその関係の中では両 者とも得点が最大化する。しかし,Hilbe et al.(2014)のゲー ム実験では,Extortion 戦略は対戦相手の協力を促進すること に失敗し,自分からは裏切らない戦略より低い成績に留まっ た。Extortion 戦略が成功するかどうかは,対戦相手がその搾 取をどれだけ赦すかによると考えられる。そこで,本研究は, 両者の選択にエラーを発生させることでゲームにノイズを導 入し,意図の不確実性のある環境での Extortion 戦略の有効性 を検討することを目的とする。仮説としては,意図の不確実 性のある環境では,ない環境に比べて,Extortion 戦略の裏切 りが赦されやすく,Extortion 戦略の成績が高い,ということ が予想される。

方法
実験参加者: 大学生 35 名(男性 19 名, 女性 16 名)が参加し た。内 5 名は,対戦相手がコンピュータであることに気付い たなどの理由により,分析から除外し,30 名(男性 15 名, 女性 15 名;平均年齢 19.83, SD = 1.32)を分析の対象とした。
実験計画: エラー有/無の 2 条件に,無作為に参加者を割り振 り,1 要因参加者間計画で実験を行なった。エラー: エラー有条件においては,協力を選んだ際に 10%の 確率でその選択が裏切りに変わって両者にフィードバックさ れた。エラーは両者の選択に生じるものとした。
手続き:ゲームの得点はR=3,S=0,T=5,P=1とした。参加 者はノートパソコンを用いてゲームを進めた。画面には常に 利得行列を表示し,参加者はそれを見ながら 2 つの選択肢か ら選択を行なった。繰り返し回数は 100 回としたが,参加者 には伝えなかった。いずれの条件も,対戦相手は Extortion 戦 略に従うコンピュータであり,その協力率は p0 = .000, pR = .857, pS = .000, pT = .786, pP = .000 とした。参加者には,対戦 相手はもう 1 人の参加者の方であると教示した。

結果
各回の平均得点(Table 1): 両条件で Extortion 戦略は参加者より有意に高い得点を獲得した(エラー有:t(14)=4.92, p < .001; エラー無:t(14)=5.34, p < .001)。参加者の平均得点, Extortion 戦略の平均得点ともに,条件間で有意差はなかった。 Extortion 戦略が搾取に成功する程度は参加者の協力率に依存 しており,参加者の協力率が高いほど得点の差が大きかった。
参加者の協力率(Table 2): 協力率としては,協力を選択し た確率と,協力を選択したとしてフィードバックされた確率 の 2 種類が算出される。エラー無条件ではこれらに差がない。 それぞれの協力率について条件間で比較したところ,いずれ についても有意差はなかった。

考察
ゲーム実験の結果は,協力を控えた参加者はコストを支払 って相手に罰を与えたと解釈できる。条件間で参加者の協力 率に有意差はなく,この結果は本研究の仮説を支持しない。 参加者自身がとった戦略についての自由記述の回答で,エラ ーに見せかけて裏切りを選択したという趣旨の記述があり, 意図の不確実性の存在によって,むしろ参加者がより裏切り を選択する可能性も考えられる。
本実験では,Extortion 戦略の選択が裏切りとしてフィード バックされる確率にはエラーの分だけ条件間で差があった。 今後の課題として,意図の不確実性のない環境で,協力を選 択したとしてフィードバックされる確率を本実験のエラー有 条件と揃えた戦略と対戦してもらう条件を追加し,ゲーム実 験を行うことが挙げられる。

引用文献
Axelrod, R.(1984). The evolution of cooperation. Basic Books. (アクセルロッド, R. 松田裕之(訳)(1998).つきあい方 の科学−−−−バクテリアから国際関係まで−−−− ミネル ヴァ書房)
Hilbe, C., Röhl, T., & Milinski, M.(2014). Extortion subdue human players but is finally punished in the prisoner’s dilemma. Nat. Commun, 5, 3976.
Press, W. H., & Dyson, F. J.(2012). Iterated prisoner’s dilemma contains strategies the dominate any evolutionary opponent. Proc. Natl Acad. Sci. USA, 109, 10409-10413.

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