発表

3AM-010

後期高齢者の近隣関係の変化とその関連要因:K2 studyにおける20カ月後の変化

[責任発表者] 菅原 育子:1
[連名発表者] 髙山 緑:2, [連名発表者] 石岡 良子:2, [連名発表者] 増井 幸恵:3, [連名発表者] 菅沼 真樹:4, [連名発表者] 小川 まどか:3
1:東京大学, 2:慶應義塾大学, 3:東京都健康長寿医療センター研究所, 4:東海大学

目 的
居住する地域の環境や地域との関わりは人々の健康および幸福感に多大な影響を与える。近年のソーシャル・キャピタル研究の興隆は、居住地域の多様なつながりが個人の健康と幸福に寄与することを様々な社会集団で実践的に示してきた。中でも高齢者は地域環境の影響を大きく受けると考えられる。実際に研究者らは、身体・心理・社会的脆弱性が増大する後期高齢者を対象に地域とのつながりや地域環境が幸福感や精神的健康と関連することを示してきた(高山ら,2017a,2017b)。地域環境要因のひとつとして近隣づきあいがある。近隣関係は物理的に近接する社会関係であることから、退職や身体機能の低下等により物理的な活動範囲が狭まる中でも比較的関係の構築や継続が容易であり重要なサポート源であると想定されてきた(Cornwell & Cagney, 2014)。しかし高齢者の長期縦断研究からは近隣づきあいが加齢により減少することが示されている(小林・Liang, 2011)。高齢期に近隣づきあいを持つ人と持たない人の違い、高齢になっても近隣づきあいを維持し続けられる要因や条件を明らかにする必要がある。そこで本研究では、都市部居住の後期高齢者を対象とした縦断調査によって、近隣づきあいの量的変化の実態とその関連要因を明らかにすることを試みた。
方 法
研究対象・調査方法:The Keio-Kawasaki Aging Study(K2study)の第1回(W1)および第2 回(W2)のデータを用いた。神奈川県川崎市A 区に居住する75±1 歳、80±1 歳、85±1 歳の男女2,297 名を住民基本台帳から二段階無作為法により抽出した。W1 は2015 年2 月に実施し75 歳群248 名,80 歳群291名、85 歳群334 名、計873 名(回収率38.0%)が回答した。W1 の回答者に2016 年10-11 月に第2 回調査を依頼し549 名(62.9%)が回答した(75 歳群171 名、80 歳群194 名、85 歳群184 名)。本調査は慶應義塾研究倫理委員会の審査を受け、承認を得て実施された。分析と用いた変数:近隣づきあいの有無およびそのW1 とW2 の間の変化を従属変数とし、個人属性、健康状態、性格特性(外向性)、家族親せきや友人関係、地域とのつながりを独立変数とする回帰分析を行った。近隣づきあいは居住地域に親せき以外でつきあいのある人がいない人を「近隣づきあいなし」、1 人以上いると回答した人を「近隣づきあいあり」とした。健康状態は主観的健康に加えて老研式活動能力指標を用いて生活自立度を測定した。性格特性(外向性)はTIPI-J(小塩ら, 2012)の下位尺度「外向性」2 項目を用いた。家族関係は婚姻状況、同居者の有無、親せきとの交流頻度をたずねた。友人関係は親しい友人との交流頻度を用いた。地域とのつながりは、地域での催しに参加する程度、自治会等地域活動への参加の有無、コミュニティ感覚の中コミュニティへの愛着に関する3 項目(居心地が良い、地域の一員だと感じている、この地域に住み続けたい)を用いた。
結 果
W1 では近隣づきあい「あり」が59.6%だった。「あり」と回答した人の90.2%は月1 回以上近隣と会ったり話をしたりしていた。近隣づきあいの有無を従属変数にしたロジスティック回帰分析の結果、地域居住年数が長い、地域活動に参加している、地域への愛着が高い、友人との交流頻度が高い、老研式活動能力指標得点が高いほど近隣づきあいを有していた。W2 回答者のうち近隣づきあいが「あり」は71.1%だった。またW1 で近隣づきあい「なし」だった人ほどW2 に協力しなかった割合が高かった(χ2(1)=9.52,p=.002)(表1)。表1.W1 の近隣づきあい有無毎にみたW2 の回答分布W1 で近隣づきあい「なし」の341 人について、W1、W2 ともに近隣づきあいがなかった人を対照群とする多項ロジスティック回帰分析を行った。W2 に非参加だった人は対照群と比べて活動能力指標得点が低かった。W2 で近隣づきあい「あり」になった人は、W1 時点で地域の催しに参加したことがある人、地域への愛着が高い人、外向性が高い人が多かった。次いでW1 で近隣づきあい「あり」の504 人について、W1、W2 ともに近隣づきあいがあった人を対照群とする同様の分析を行った。W2 に非参加の人は対照群と比べて活動能力指標得点が低かった。またW2 で近隣づきあいが「なし」になった人は、対照群と比べてW1 時点の主観的健康が低かった。
考 察
地域の催しに参加したことのある人、地域への愛着を感じている人、外交的な人は、将来的に近隣づきあいを新たにつくる可能性が高いことが示された。近隣づきあいが深化する過程を詳細に明らかにすることで、近隣づきあいを支援する介入プログラムの構築につながることが期待される。一方で健康や生活自立度の低さは近隣づきあいの喪失につながっていた。健康や生活自立度が低下しても近隣づきあいを続けられる要件を明らかにすることが求められる。
引用文献
Cornwell & Cagney(2014).J Geron, SeriesB, 69, S51-S63.
小林・Liang(2011).社会学評論, 62(3),358-374.
小塩ら(2012).パーソナリティ研究, 21(1), 40-52.
高山ら(2017a).日本老年社会科学会第59 回大会.
高山ら(2017b).第32 回日本老年精神医学会.
謝辞:本研究は文部科学省補助事業「慶應義塾大学博士課程教育リーディングプログラム・オールラウンド型 超成熟社会発展のサイエンス」,およびJPSP 科研費26310107(研究代表:高山緑)の助成を受けて行われました.

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