発表

3AM-005

青年期の価値観形成に及ぼす気質と親の価値観の影響

[責任発表者] 片桐 恵子:1
[連名発表者] 伊藤 宗親:2
1:岐阜市民病院, 2:岐阜大学

目 的
 価値観とは,パーソナリティの構成要素であり,とりわけ意志や行動の方向性を示す概念とされる。この価値観の形成にとって重要な時期が青年期である。青年期にはさまざまな価値観との出会いを繰り返し,その都度それを肯定したり否定したりしながら次第に自らの価値観を形成していく。このように,価値観とは遺伝によってではなく,周囲の環境や経験に基づいて形成されていくと考えられる。これまでに森下(1979)が,青年の価値観とは青年が認知する親の価値観とよく類似することを明らかにするなど,価値観形成は特に親からの影響を受けることが示唆されてきた。しかし,それが遺伝とは異なる影響であるかは明らかにされなかった。また,Knafo & Schwartz (2004)は,子の価値観,子の認知する親の価値観,親自身の価値観の3つの類似関係が,“認知の正確さ”と“受け入れ”を意味するとした。価値観が親から子へ伝達される仕組みを明らかにするには,遺伝性の有無の他に子の認知や受け入れに影響を与える要因についても検討する必要がある。このような条件に適した概念に気質がある。気質とは,個人の示す情動反応の特徴であり,パーソナリティの基盤をなす概念である。気質はその起源が遺伝的なものであり価値観以前に獲得される。また,パーソナリティ形成において環境からの情報刺激の取り込みを左右する働きをもつ。そのため,価値観形成においても気質が影響を及ぼし,特定の価値観の取り込みにバイアスを与えることが考えられる。
そこで本研究では,価値観と気質の親子間の類似性から両者の伝達方法の違いを明らかにし,また親の価値観の取り込みにおける気質の影響を検討することを目的とした。
方 法
被調査者:大学生131名(男性38名,女性90名,不明3名)とその親,父親118名,母親128名。
調査内容:価値観と気質に関する質問紙を実施した。使用した尺度は,以下の2つであった。
1. オールポート・ヴァ―ノン価値テスト(Allportら,1951)の日本語・短縮版(津留ら,1975)。「理論」「経済」「審美」「権力」「社会」「宗教」の6つの下位尺度からなる。第1部が一対ずつ価値比較する二択形式で15項目,第2部が4つの選択肢から選び順序付ける四択形式で6項目であった。
2. Temperament and Character Inventory:TCI(Cloninger,Svrakic,Przybeck,1993)の日本語・短縮版(木島・斉藤・竹内・吉野・大野・加藤・北村,1996)。「新奇性追求」「損害回避」「報酬依存」「固執」の4つの下位尺度からなる。60項目。4件法で回答を求めた。
 子である大学生には,自分自身についての価値観と気質の回答に加え,父親・母親の価値観と気質についても想定して回答するように求めた。父親・母親には子を通して質問紙を配布し,自分自身についての価値観と気質への回答を求めた。
結 果 と 考 察
親子間の類似関係を検討するため,性別ごとに子の価値観,親の価値観,子が認知する親の価値観について,同一下位尺度間の相関係数を算出した。また,子の価値観を従属変数,親の価値観,子の認知する親の価値観を独立変数とした重回帰分析を行った。さらに,各変数間の得点の差から類似性得点を算出し,類似性得点の差の検討をするためt検定を行った。気質についても同様の分析を行った。その結果,子の価値観は実際の親よりも子が認知する親の価値観と類似し,特に同性の親との間で顕著であった。子の気質は,女性において「損害回避」や「報酬依存」で実際の親および認知する親と類似する結果となったが,気質の遺伝性を示すには至らなかった。しかし,価値観とは異なる結果を示したといえる。
 次に,子の価値観が親の価値観や気質から受ける影響を全体的にとらえるため,重回帰分析を行った(表1)。その結果,子の認知する母親の価値観が全てに対して正の影響を及ぼし,子の認知する父親の価値観は,「理論」,「権力」,「社会」,「審美」に対して正の影響を及ぼした。一方,実際の親の価値観は,母親において「権力」に対して正の影響がみられるのみであった。また,子の気質の「報酬依存」は「理論」に対して負の影響を,「社会」に対して正の影響を及ぼし,「固執」は「経済」に対して負の影響を及ぼした。これらの結果から,「報酬依存」が強い場合,理論的価値を獲得しにくく社会的価値を獲得しやすいこと,「固執」が強い場合,経済的価値を獲得しにくいことが示唆された。
本研究では,まず,子の価値観は実際の親の価値観よりも子の認知する親の価値観に類似することが確認された。青年は親の価値観を正確に認知せず,自分が親の価値観だととらえているものを価値観形成において取り入れていると考えられる。気質については,遺伝性を明らかにはできなかったが,価値観と気質では親との類似性の現れ方が異なっており,両者の性質も異なることが示唆された。また,「報酬依存」「固執」といった特定の気質特性の強さが,部分的に価値観領域の獲得の促進あるいは抑制に影響を及ぼすことも示唆された。
引用文献
森下正康 1979 子どもの親に対する親和性と親子間の価値観および性格の類似性 心理学研究 第50巻第3号,145-152. ほか

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