発表

2EV-086

高校生にとってのロールモデルと将来像

[責任発表者] 向田 久美子:1
1:放送大学

目 的
 思春期・青年期の子どもは、アイデンティティ形成や職業選択の過程において、さまざまな対象への同一化を試みる(Erikson, 1963)。こうした対象は重要な他者、あるいはロールモデルと呼ばれている。Gibson(2003)は、「自らと似たところがあり、その人物の特性や行動を見習おう(あるいはそうならないようにしよう)とする対象」をロールモデルと定義し、成人期の職業的発達との関連を検討している。また、Lockwood et al.(2002)は大学生の学業達成におけるロールモデルの影響を検討している。しかしながら、概して成人期のキャリアと関連づけた研究が多く、それ以前の発達段階に関する実証的な研究はあまりなされていない。
高校生を対象としたベネッセ(1995)の調査によれば、生き方のモデルがいる生徒は、いない生徒よりも「自分の考えをもって」おり、「将来やりたいことがある」傾向が強いという。この結果はロールモデルの存在がアイデンティティや将来設計に一定の役割を果たしていることを示唆している。
本研究では、高校生が実際にどのような対象をロールモデルとし、どのような将来像を描いているかを、自由記述形式で尋ねたうえで、両者の関連性について検討した。先行研究から、ロールモデルがいる場合は、いない場合に比べて、将来像がより具体的になると予測された。なお、ロールモデルにはポジティブ、ネガティブの双方があるが、今回はポジティブなロールモデルのみを取り上げた。
方 法
研究対象:中部地方にある公立高校の1年生220名(平均年齢15.6歳、男子68名、女子152名)。無回答の2名を除く218名を分析対象とした。
方法:授業時間内に担任教員により質問紙を配布してもらい、その場で回答を得た。所要時間は20~30分であった。
調査内容:フェイスシート(年齢・性別)、将来像(教示文:今から10年後の10月のある日の生活について述べてください。どんなことをして、どんなことを考え、どんなことを感じているか、なるべく詳しく具体的に書いてください)、ロールモデル(教示文:あなたには「このような人になりたい」とか「こんなふうに生きたい」という人がいますか。そのような人がいる場合、「どのような人で、どのような点でそう思うのか」を下欄に具体的に書いてください。身近にいる人でも、架空の人物でもかまいません)。将来像の回答には、A4サイズ1枚(罫線あり)を用い、ロールモデルの回答については同じくA4サイズ1枚に5名まで書ける欄を設けて記入してもらった。
結 果
1.ロールモデル
ロールモデルについては、145人(66.5%)が「いる」と回答した一方、73人(33.5%)は「いない」と回答した。「いる」と回答した生徒のうち、1名のみを挙げた生徒が70人(32.1%)、2名挙げた生徒が50人(22.9%)、3名が14人(6.4%)、4名が7人(3.2%)、5名が4人(1.8%)となっていた。挙げられた人物について、ベネッセ(1995)を参考に14のカテゴリー(父親、母親、友人・先輩、先生・コーチ、ミュージシャン、アスリートなど)に分類した。最初の1名に挙げられていたのは、多い順に「先生・コーチ」(17.2%)、「ミュージシャン」(13.1%)、「フィクションの主人公」(11.0%)、「友人・先輩」(10.3%)、「母親」(7.6%)となっていた。
2.将来像
「10年後のある一日」の記述内容については、Mukaida et al.(2010)と同様の手続きを用いてコーディングを行った。10年後になんらかの「仕事」をしていると書いた生徒は181人(83.0%)、具体的な「職種」に言及している生徒は80人(36.7%)、結婚や子どもなど「家族」の存在に言及している生徒は65人(29.8%)であった。いずれのカテゴリーの出現率にも性差は見られなかった。これらの3つのカテゴリーへの言及の有無の合計を、将来像の具体性の指標とみなした(0~3の4段階)。その結果、いずれにも言及のない0の生徒は27人(12.4%)、1の生徒は84人(38.5%)、2の生徒は79人(36.2%)、3の生徒は28人(12.8%)となった。
3.ロールモデルと将来像との関連
 ロールモデルの有無によって、将来像の具体性に差があるかどうかを見るためにt検定を行ったところ、ロールモデルが1名以上いる生徒(M = 1.60)は、いない生徒(M = 1.29)よりも将来像の具体性が高いことが示された(t(216) = 2.53, p =.012)。一方、挙げられたロールモデルの数と将来像の具体性との間には有意な相関は認められなかった(r = .10, n.s.)。
考 察
本研究の結果、高校生の約3分の2は身近な人物や著名人、架空の人物など、多様な人をロールモデルとしていることが示された。また、予測通り、どのような存在であれ、ロールモデルがいることが、高校生の将来像を具体化するのに貢献していることが示唆された。
 今回の分析では、ロールモデルの有無と将来像との関連を中心に検討したが、今後はロールモデルの種類や特徴との関連についても探っていく必要があると思われる。また、将来像の具体性の指標についても、妥当性を検証していくことが必要であろう。
引用文献
ベネッセ(1995)モノグラフ・高校生Vol.44
Gibson(2003)Organization Science,14,591-610.
Erikson(1963)Childhood and Society. Norton.
Lockwood et al.(2003) JPSP, 83,854-864.
Mukaida et al.(2010) パーソナリティ研究,19,171-121.

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