発表

2EV-085

前期高齢者における老年的超越の発達に対する介護経験の影響

[責任発表者] 増井 幸恵:1
[連名発表者] 権藤 恭之:2, [連名発表者] 中川 威:3,4, [連名発表者] 小川 まどか:1, [連名発表者] 石岡 良子:5, [連名発表者] 蔡 羽淳:2, [連名発表者] 安元 佐織#:2, [連名発表者] 小野口 航:1,6, [連名発表者] 髙山 緑:5, [連名発表者] 稲垣 宏樹:1
1:東京都健康長寿医療センター研究所, 2:大阪大学, 3:国立長寿医療研究センター, 4:日本学術振興会, 5:慶應義塾大学, 6:早稲田大学

目 的
老年的超越とは、中年期までの物質主義的で合理的な態度や価値観、行動特性が、高齢期になって宇宙的・超越的・非合理的なものへ変化することであり、高齢期に発達するとされている。これまで、前期高齢者よりも後期高齢者で老年的超越が高いことは報告されているが、縦断的データによる知見は限られている。一方、老年的超越の横断的な差異に関連する要因として、年齢や性別の他、死別などの人生の危機に関する経験が老年的超越の高さの違いに影響することが報告されているが、縦断的変化に影響する要因に関してはほとんど知見がない。そこで、本報告では、前期高齢者の老年的超越の縦断変化に対して、性別と人生の危機の一つである介護経験が影響するかを潜在成長曲線モデルにより検討する。

方 法
調査参加者と手続き 大阪大学、東京都健康長寿医療センター研究所、慶應義塾大学の共同実施によるSONIC研究の第1波調査(2010年)、第2波調査(2013-2014年)、第3波調査(2016-2017年)の参加者であった。対象者は東京都・兵庫県に設定された調査地域に在住し所定の年齢(第1波時の年齢:69歳~71歳)だった者全員であった。これらに対して第1波時、第2波時にリクルートを行い、1229人(女性53%)が第1波調査から第3波調査までに1回以上調査に参加した。3年から4年間隔で追跡調査を行い、参加回数の内訳は、1回のみ299人、2回314人、3回616人であった。全ての調査は会場招待型で実施した。
測定尺度と分析モデル 老年的超越:日本版老年的超越質問紙改訂版(増井ほか, 2013)27項目、4件法。尺度全体の合計得点(0-81点)と8つの下位尺度得点を用いた。介護経験:家族を介護した経験があるかについて、(まったくない、手伝い程度、中心なって行った)の3件法で尋ねた。分析モデル:IBM SPSS AMOS23を用いて、条件付き潜在成長曲線モデルによる分析を行った。第1波、第2波、第3波の老年的超越尺度合計得点と各下位尺度得点を観測変数に、切片と傾きに影響する説明変数として性別(男性=0、女性=1)、介護経験(まったくない・手伝い程度=0、中心となって行った=1)をダミー変数として用いた。
倫理的配慮 本研究計画は,東京都健康長寿医療センター研究所ならびに大阪大学大学院人間科学研究科の研究倫理委員会で審査、承認された。

結 果
分析の結果、老年的超越質問紙合計得点に対して、性別から切片への効果(非標準化推定値=3.65, p<.001)、介護経験からの傾きへの効果(非標準化推定値=1.68, p<.001)が有意でああった。モデル適合度指標はCFI=.99、REMSA=.06であった。老年的超越の下位尺度に対しては、二元論からの脱却、社会的自己からの脱却、無為自然以外の尺度において性別の切片への影響が0.1%水準で有意であり、女性で観測変数の切片が高かった。一方、ありがたさ・おかげの認識、社会的自己からの脱却、利他性、無為自然の傾きに対して介護経験の影響が有意であった(傾き=.24~.40 p<.05)。
次に、性別と介護経験に分けた4群について、3時点の老年的超越質問紙合計得点の傾きの有意性を検定した。各群の傾きの非標準化推定値はすべて有意であり、女性で介護を中心となって行った群(傾き=2.26 p<.001)、女性で介護を中心として行っていない群(傾き=1.89 p<.001)、男性で介護を中心となって行った群(傾き=1.25 p<.05)、男性で介護経験が少ない群で増加率が最も小さかった(傾き=0.88 p<.05)。

考 察
今回の結果から、前期高齢者に6年間の老年的超越の各尺度の縦断的変化は、初期値において女性の方が高いが、その後の変化率は男女で違いがないこと、介護を中心となって行う経験が男女とも老年的超越の成長を促進することが示されたが、介護を手伝い程度の群でも老年的超越の成長がみられ、ダミー変数の区切りも含め詳しく検討する必要がある。一方、介護経験は、特に、老年的超越の要素のうち、他者への感謝、他者中心的な傾向、ありのままの受容に関する側面の発達を促進すること可能性が示された。介護という「人生の危機」の経験が、老年的超越を高めることは横断データでは確認されていたが、縦断データにおいて確認されたことは意義が高く、介護経験のよい側面を示すものとして重要であると考えられる。

謝 辞
 本研究はJSPS科研費15K04176および26310104の助成を受けたものである。

引用文献
増井幸恵・中川威・権藤恭之ほか. (2013). 日本版老年的超越質問紙改訂版の妥当性および信頼性の検討. 老年社会科学, 35(1), 49-59.

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