発表

2EV-080

子育て期の父親の育児関与とアイデンティティとの関連

[責任発表者] 森屋 啓子:1
[連名発表者] 山崎 浩一:2
1:武蔵野大学, 2:フェリス女学院大学

目 的
柏木(2011)が,父親の育児参加が増加し,「子育てを本命のようにする“新種”」の父親が出現したと述べ,また,厚生労働省(2015)が育児を主体的に行う父親への支援対策を数々打ち出し,父親の育児参画 を国を挙げて呼び掛けるなど,父親の育児参加への支援あるいは捉え方に変化が起こっている。父親と子どもの関係について小此木(1997)は,母親と子どもの絆が肉感的・感覚的であるのと比して,社会的・道徳的であると述べ,子どもと母親,子どもと父親との関係性の相違について指摘している。
本研究では,父親が育児に参加することが父親自身の発達に与える影響を母親のそれと比較することを目的とする。具体的には,職業・家庭への関与ならびに育児への関与が父親のアイデンティティ形成へどのように影響するのかを検証する。さらに,得られた結果から,子を育む環境としての父親の発達を,子どもの人格形成の一つのシステムを理解するための基礎的資料とし,また,その環境の醸成の効果について考察する。

方 法
(1)研究対象
山梨県内の幼稚園・保育園・認定こども園に通う園児の父親531名のうち,有効回答を得た267名。
(2)調査期間及び調査項目
2015年10月半ばから末に質問紙を配布,回収した。
質問紙は,岡本(1992)で使用されたMarciaの自我同一性ステイタス論を基盤とし修正,作成された,仕事・家庭・育児への関与について,それぞれ自由記述欄を設けた質問紙と,Rasmussen(1964)の自我同一性スケール(Ego Identity Scale)を項目分析し11項目を削除した質問紙(以下、E.I.S.と略)を使用した。

結 果
職業・家庭への関与の仕方ならびに,育児への関与の仕方について,それぞれ主体的選択・積極的関与型,模索最中型,その他,無回答に分類 し,分類ごとにE.I.S.得点及び下位項目得点を比較した。さらに,E.I.S.の合計と下位項目と,職業と家庭への関与の程度,育児への関与の程度,父親本人の年代,業種,子どもの人数,妻の勤務形態,祖父母との同居の有無それぞれについて1要因分散分析を行った。その結果,職業,家庭,育児のいずれも,積極的関与とE.I.S.得点の間に関連は見られなかった。 結果の中で特筆すべき点は,自由記述の意見の中で,自らが能動的に自分なりの「父親像」を構築し,質問項目に当てはまらないとの主張があったことである。

考 察
職業と家庭への関与については,鑪(2002)の「外的世界はこれまでと変わらず,あるいは一層厳しくなりながら,家庭生活では男女,親子のかかわりの基本的改革が要求されているのが現代の家族のライフサイクルの決定的な困難さである」という指摘を,行政や社会の潮流に安易に自身の父親像を委ねず,父親自らが能動的に自分なりの「父親像」を構築する黎明期の存在が明確になったことでそれを裏付ける結果 となった。また,父親と育児の間に生じる相互性の視点では,特に,職業・家庭、育児への関与についての質問項目で“その他”が,職業・家庭,育児への主体的選択・積極的関与型,模索最中型と比較して最も高い。これは,職業・家庭,育児への関与の仕方にはこれらの分類を超える他の分類項目の存在が示される。このことから,独自性,自発性を兼ね,例えば仕事も育児も両方全力で遂行するなど,自らの決定に責任と自負をともなわせ,父親としてのアイデンティティを「職業人・家庭人・父親そして自分」といった,いわばポジティブな統合として,子どもを含めた家庭でのやりとりにより育み備えた新しい父親像が出現していることが示唆される。このような父親の存在は,しかし,男性の生き方の多様化を阻んでいる(飯野,2007)ともいえる。今後の課題として,このような父親の,多様性を含めたアイデンティティ形成を支援し,かつ,広める社会制度の整備について提案することも必要であろう。

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