発表

2EV-078

小学生における物語への没入体験の測定:文学反応質問紙児童用の検討

[責任発表者] 小山内 秀和:1
[連名発表者] 米田 英嗣:2, [連名発表者] 古見 文一:3, [連名発表者] 楠見 孝:4
1:浜松学院大学, 2:青山学院大学, 3:静岡大学, 4:京都大学

目 的
 物語への没入は,読者が物語を読む行為とその内容とに入り込んでいる体験とされる (小山内・楠見, 2013)。こうした体験を測定するために,さまざまな尺度が作成されてきた (Busselle & Bilandzic, 2009; Green & Brock, 2000; Miall & Kuiken, 1995)。しかしながら,これらの尺度は青年以上を対象としたものであり,子どもを対象に没入体験を測定した研究はほとんどみられない。これまでの研究で,子どもは成人とは異なる物語読解方略を持っていることや (Born-Getter et al., 2011),読者が表現する文学的解釈は年齢が上がるにつれて精緻になること (Briner et al., 2013) などが報告されており,没入体験も子どもは成人と異なる可能性が考えられる。
 小山内・岡田 (2013) は,Miall & Kuiken (1995) の文学反応質問紙を児童用に改変した「文学反応質問紙児童用 (LRQ-C)」を作成した。これは,没入体験を含めた文学的体験の児童における個人差を測定する尺度である。小山内他 (2014) は,LRQ-Cを大学生を対象に実施し,成人版尺度との間で並存的妥当性を確認しているが,子どもを対象とした調査は行っていない。そこで本研究では,LRQ-Cを小学生に対して実施することで,この尺度の妥当性の検討を行う。
方 法
 調査参加者 全国の小学校4年生から6年生までの児童各200名,計600名 (女児302名,男児298名) が調査に参加した。調査は,インターネット調査会社を通して参加者の募集を行い,参加者は保護者の同意の上で,ウェブ上で回答を行った。
 測定尺度 まず,LRQ-Cを用いた。これは,共感・イメージ,読書への没頭,作者への関心,自己や現実の理解,ストーリー志向の5下位尺度からなる尺度である。各下位尺度5項目ずつの25項目で,「1:まったくない」から「5:いつもある」の5段階で評定を求めた。次に,LRQの妥当性を検討するため,児童用多次元共感性尺度 (長谷川他, 2009) を用いた。これは,共感的関心,個人的苦痛,想像性,視点取得という共感の4側面について,30項目で測定するものである。回答は「5:あてはまる」から「1:あてはまらない」までの5段階で評定してもらった。
結 果 と 考 察
 まず,LRQ-Cの因子構造を検討するために,確証的因子分析を行った。小山内・岡田 (2013) が想定した5因子モデルについて検討したところ,問題ない適合度であると判断された (GFI = .863, CFI = .917, RMSEA = .065)。各項目への所属因子からのパス係数はいずれも0.5を超え,予測どおり5因子構造の再現が確認できた。また,各下位尺度の信頼性を検討するためにCronbachのα係数を算出したところ,いずれの尺度でも充分な内的整合性が確認された (Table 1)。
 次に,LRQ-Cの妥当性を検討するために,共感性尺度との間で相関係数を算出した。結果をTable 1に示す。この結果,LRQ-Cは共感性尺度,とりわけ「想像性」下位尺度との間で正の相関を示した。特に,「共感・イメージ」尺度は想像性との間にr = 0.53という中程度の関連を示した。これは,共感性が文学的反応との間で関連が見られたとする日道他 (2016) の報告と一致するものである。一方,LRQ-Cの「現実や自己の理解」と「ストーリー志向」は,共感性尺度の「共感的関心」との間で関連が見られた。このことは,他者志向的な感情が,物語のストーリー性への注目やそれにともなう洞察といった読書体験と関連することが考えられる。
 文学的体験の発達的変化の有無を検討するため,LRQ-C得点の学年差を検討したところ,大きな差異は見いだされなかった。このことは,小学校高学年においては没入体験やその他の文学的体験はあまり変化しない可能性を示している。
結 論
本研究の結果,LRQ-Cは頑健な因子構造と信頼性,妥当性を備えた尺度であることが示された。一方で,没入体験を含む文学的体験の発達については,さらに低年齢のころから変化していく可能性も含めて,今後詳細に検討していく必要があるだろう。
引用文献
Miall, D. S., & Kuiken, D. (1995). Research in the Teaching of English, 29, 37–58.
小山内秀和・岡田斉 (2013). 日本心理学会第77回大会.
小山内秀和・岡田斉・楠見孝 (2014). 日本発達心理学会第25回大会.

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