発表

2PM-092

中高年者のワーク・ファミリー・バランスと主観的健康感の因果関係──3年間の縦断的検討──

[責任発表者] 富田 真紀子:1
[連名発表者] 西田 裕紀子:1, [連名発表者] 丹下 智香子:1, [連名発表者] 中川 威:1,2, [連名発表者] 大塚 礼#:1, [連名発表者] 安藤 富士子:1,3, [連名発表者] 下方 浩史:1,4
1:国立長寿医療研究センター, 2:日本学術振興会, 3:愛知淑徳大学, 4:名古屋学芸大学

目 的
現代日本において中高年者のワーク・ファミリー・バランス(WFB)の実現は重要な課題となっている。仕事と家庭の両立がより良く遂行されるためには、健康状態が良好であることが前提条件として考えられるが、その一方で両立が上手くいかないために健康が阻害されることも想定される。これまでWFBと主観的健康感の関連は横断的研究により検討されているが(Kobayashi et al., 2017)、因果の方向性は検証されていない。本研究では因果関係の検証に有効であるとされる交差遅延効果モデルと同時効果モデルを用いて(Finkel, 1995)、中高年者のWFBと主観的健康感の因果関係を明らかにする。
方 法
分析対象:「国立長寿医療研究センター・年代別(老化に関する長期縦断疫学研究」の第7次調査(T1)と約3年後に行われた第8次調査(T2)ともに参加し、使用する変数に欠損がない有職者1054名(T1の平均年齢54.1±9.3歳)。尺度:(1)WFB尺度(富田他,2012):仕事と家庭を両立する際に生じる、役割間の「葛藤」と「促進」を測定する尺度であり、ワーク・ファミリー・コンフリクト(WFC)は「仕事→家庭葛藤」、「家庭→仕事葛藤」、ワーク・ファミリー・ファシリテーション(WFF)は「仕事→家庭促進」、「家庭→仕事促進」から成る。(2)主観的健康感(Self-rated health: SRH):現在の健康状態を問う自己評価項目であり、得点が高いほど健康状態が良好であることを示す。尺度(1)(2)はT1及びT2において施行した。解析:交差遅延効果モデル(モデルA:図1)と同時効果モデル(モデルB:図2)により、WFBからSRHへの影響(β1,β1’)、SRHからWFBへの影響(β2,β2’)を推定した。また、年代(60歳未満:中年、60歳以上:高年)と性別の4群による多母集団同時分析を行った。分析にはSAS.9.3、AMOS.22.0を用いた。倫理的配慮:当センター倫理・利益相反委員会の承認を得た。
結 果
モデルの適合度は、全対象者および多母集団同時分析の結果、CFI=.99-1.00、RMSEA=.00-.06と十分な値を示した。モデルAとBのパスβ1、β2、β1’、β2’に関して、全対象者では有意な値が示されなかった。次に、年代・性別の多母集団同時分析を行ったところ、有意な影響が部分的に示された(表1)。モデルAでは、高年男性のSRH(T1)は家庭→仕事葛藤(T2)に負、高年女性のSRH(T1)は仕事→家庭促進(T2)に正の影響を示した。モデルBでは、中年男性の家庭→仕事葛藤(T2)はSRH(T2)に負、及び家庭→仕事促進(T2)はSRH(T2)に正、高年男性のSRH(T2)は家庭→仕事葛藤(T2)に負、及びSRH(T2)は家庭→仕事促進(T2)に正、高年女性のSRH(T2)は仕事→家庭促進(T2)に正の影響を示した
考 察
WFBと主観的健康感の関連について縦断的検討を行い、年代・性別による因果関係の差異を明らかにした。特に、因果の方向性に着目すると、中年男性ではWFBからSRHへの影響があり、一方で高年男女ではSRHからWFBへの影響が示唆された。中年男性と高年男女では因果関係が逆方向であった理由としては、中年男性ではWFBが上手く遂行できていることが健康保持には重要であるが、高年になると健康状態が良好であるかどうかがWFB実現のための重要な要件になるためと考えられた。また、高年男性のSRHから家庭→仕事葛藤(β2とβ2’)、高年女性のSRHから仕事→家庭促進(β2とβ2’)は、モデルAとBにおいて同じ因果の方向性で有意な影響が認められた。すなわちこれらの影響関係は、同時点の影響と縦断的影響の両方が示唆されたことから、今後、特に注目すべき点であるといえよう。
なお、従来は中年女性を対象としたWFB研究が多かったが、本研究では中高年男性、高年女性においてWFB実現が健康状態を良好に保つためには重要であることが示唆されたことは意義深い。また、男性は家庭→仕事、女性は仕事→家庭という作用の方向性において有意な影響が示された。すなわち、中高年者では伝統的性別役割とされる役割(男は仕事、女は家庭)が阻害もしくは促進されると健康状態に影響があることが明らかとなった。今後の課題は、3時点以上の縦断データを用いて、本知見のさらなる検証が求められよう。
引用文献
Finkel S.E. (1995) Causal analysis with panel data. California: SAGE Publications.
Kobayashi T, et al. (2017) Work-family conflict and self-rated health among Japanese workers: How household income modifies associations. PLOS ONE 12(2): e0169903.
富田他 (2012).中高年者のワーク・ファミリー・コンフリクトとファシリテーション 日本心理学会第76回大会.
【付記】平成29年度科学研究費補助金 (17K13958)により行われた。

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